カンカンカンカン…と階段を登る音が聞こえる。


もう帰ってきたのかと、時計を見る。

違う人かもしれないし、

はるかはテレビをつけた。


ピーンポーン…

聞きなれた機械音が鳴り響く。


はるかははーい、と声をかけて覗き穴を

覗いた。



そこには。

無精髭を生やしたおじさん。


はるかは数歩後ずさって思わず尻餅をついた。


「はるかーいるんだろーはるかー俺だよ、俊英だ」



ドックンドックンと、

心臓が強く、早く、打ち始める。


手汗が滴り落ちるぐらいに濡れてくる。


ピンポンピンポン連続で鳴る。

ドンドンドンと叩かれる玄関。

練が鍵をかけていかなければ、

今頃開けられているに違いない。

ガチャガチャとドアノブが動く。



はるかはいつの間にか

廊下の壁に背中をつけていた。


大きな声で叫んでしまいそうになる口を、

強く手で抑える。


膝が震える。


「返事しただろー!いるんだろーはるかー!!」


声が聞こえる度に、

身体が勝手にびくりと震える。

「…っ」

顔中、涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。


早く帰って!


頭の中はそれだけで。

他には何も考えられなくて。