夢を見た。

昔の夢だ。

あの夜、仕事に行ったまま父は
帰ってくることは無かった。

自分の通帳、印鑑、保険証
その他諸々の必要なものは全て
きれいさっぱり消えていた。

母のへそくりごと、消えていて。


母はわたしを育てるため、
朝から夕方まで毎日パチンコ屋で働いた。

去年まで一緒に食べていた運動会の
お弁当はひとりで食べた。

授業参観後の懇談会の内容は
次の日の放課後職員室で聞かされた。

卒業式は、一人で帰った。

母はその後、過労で死んだ。

中学生になってから、
働く時間を更に増やしたからだ。

『中学校の入学式晴れるといいね』

それが母の最後の言葉だった。



はるかはゆっくりと瞼を開けた。

走馬灯のような、
とても長くとても短く、
とても懐かしい思い出達だった。

涙をぐいとふく。
まだ外は暗かった。

ベランダのガラス戸を開けた。
冷たい風が熱っぽい瞼を冷やしてくれる。


ここ最近、熟睡ができない。
1時間おきに目が覚める。

自分の体が汚れてしまったあの日から、
見えるものがモノクロのようだった。

思い出さないようにしたいけど、
できない。

正直梁島さんが怖い。
でも、外を出るのはもっと怖い。


はるかは中に入ってもう一度布団をかぶった。