新幹線から降り、改札口から人が溢れてくる度、練は立ち上がって人の波の中を探す。
4.5回見送って、今日は帰らないのかなと、半ば諦める。
これで最後にしよう、
そう思ってベンチから立ち、
こっちに向かって歩いてくる人の顔を探していく。
波が終わった。
帰ろう、と出口に向かって行く前にもう一度と振り返る。
いた…。
小ぶりなキャリーケースを引きずって、
マフラーで顔の下半分を隠して、
トボトボと歩いているはるか。
「き…」
菊原さん!と呼ぼうとして口を閉じる。
「はるかさん!」
驚いたようにこっちを見る。
こっちを見てくれた喜びに、練は手を振った。
「待っててくれたんですか?」
缶コーヒーで手を温めているはるか。
手元を見つめたまま動かない。
「これから電車に乗って、バイト先挨拶しようかなって思ってて」
ブラックコーヒーを逆さにして飲み切る練。
「送るよ」
隣から反応がなくて、練はもう一度言う。
「送らせて」
こくりと小さく頷いた。
思わず笑みをこぼしてしまう。