「新しい職場見つかったんだってね。この前電話来たわ。栃木で働くとかなんとか」
「栃木…」
「ここから車でそうねー、高速使って1時間?もっとかな?会いに行けない距離じゃないでしょ」
「…え?」
眼鏡を外す理子。
普段はコンタクトだけど今日は眼鏡。
「だから、梁島さんとも付き合ってない、会えない距離じゃない。行っちゃえば」
航平は声に出して笑った。
さすがミスコンファイナリスト。
どんなに口開けてバカ笑いしてても様になる。
「ないです」
きっぱりと言い切る航平。
真剣な顔で理子を眺めるような目。
「梁島さんはいい人です、本当に。そんな人が傷つくのは見たくないし、そんな梁島さんを見て傷つくはるかさんも見たくない。あの2人の幸せが俺の幸せです。…なんて、カッコつけすぎ?」
口元にうっすら浮かぶ笑顔。
無理矢理笑おうとして笑えてない。
「航平くんさ、」
「はい」
理子も真剣な目で航平を見返す。
つられて航平の口元から微かな笑みが消える。
「前歯にのりついてるよ」
すぐに口元を押さえる航平。
理子は周りの席に迷惑なほど大きな声で大笑いした。
大笑いして、笑い飛ばしてあげた。