「この前、会ってきたの。親戚のおじさんに」
あの人か。
「どんな顔して会えばいいのかわからないまま会ってきて。おじさん見た時な、驚いた。あれ?こんな人だったっけ?って。こんなに小さい人だったっけ?って。びっくりして、何も言えんで、突っ立ってたらな、おじさん、一言、『ごめんな』って言ってきたんねん」
「…はい」
「ごめんって何?ごめんで済むことじゃないよ、そう思った」
「…はい」
練の呼吸が微かに聞こえる。
外にいるのだろうか。
話し声が聞こえる。
「でもね…」
プァーーーーーーン
電車の音が響く。
「え、すみません、いまちょっと電車が」
「土方歳三」
「え?」
「土方歳三っておるやろ。土方歳三が詠んだ俳句、知ってる?」
「…豊玉」
「そう、それや。それにな、『梅の花一輪咲てもうめはうめ』っていうのあんねん」
履いてるスニーカーに雪がついてる。
はるかはしゃがんでそれを払う。
「当たり前の事やろ。一輪咲いてもって、梅の木やし」
「はい…」
「あっ…。って思ったんよ。その時わたし、あっておもった。あ、わたしは当たり前のことを、当たり前と思える当たり前を、忘れてた…って」