愛しい声が聞きたくて、
成海は電話を耳に強く当てる。


『あのさ…、子供堕ろした?』



ツーツーツーと、

規則正しい機械的な音がかすかに聞こえる。


いつまでこうしていたのだろう。



「成海?」


練の声が聞こえて、はっとする。

気がつけば、床に座り込んで

胸元で携帯を握りしめていた。



引き戸が開いて練が顔を出す。


こっちに向けられた背中がとても小さく
弱々しく見える。


「どうしたの?大丈夫?」


練の優しい声に、成海は目の奥から溢れてくる涙をぎゅっと堪える。


「どっか痛い?」


不安に駆られた練の声が聞こえたと同時に
背中を優しく撫でてくれる。

成海は首を横にふる。


「泣いてるの?」


どうしてここまで優しいんだ。

お腹の子は練の子じゃない。

無理矢理酔わせてわたしから一方的に
襲って、その時できた子供だって嘘ついて。

信じないと思ってた。

その場で咄嗟に思いついた嘘を
あなたはどうして疑わないの。