15年前のあの日は雨だった。


どこまでも灰色な空で、

止む気配はしばらくないように思えた。


『はるちゃん、今日のお夕飯、なにが食べたい?』


雨雲を吹き飛ばせるような笑顔で、母ははるかに聞いた。


今日は人生で一度きりの6歳の誕生日。


『ショートケーキ!』

『ショートケーキ!うん、他には?』

『他に?うーん、オムライス!』


まだ小さかったはるかは、
夜ごはんのことを思い浮かべながら
わくわくしていた。


『パパ、今日は何時頃帰れそう?』


いつもなら、父はこう言ったはずだ。


『今日ははるかの誕生日だもんな!お仕事早く片付けてすぐに帰ってくるよ!』


だけど、その日は違った。
はるかを見ながら一瞬だけ固まった。


『…っあぁ、そうだな。早く帰ってくるよ』


その時、はるかの胸の中に"何か"が残った。

だけど、その"何か"は

当時のわたしにはわかるはずがなく。

でも21の今ならよくわかる。




だけどその"何か"は、はるかがランドセルを背負って靴をはいた時には、もうすっかり忘れていた。




雨はしばらく続くという予報だった。