店の救急箱には消毒液も軟膏も絆創膏も揃っていた。
救急箱を手に冬真が戻ってくると、理紗は傷口の血を拭き終えていたが、沙世子の服をそのままソファーに置いて、着替えてはいなかった。
「着替えないの?」
「やっぱりいい」
顔色は悪いままだ。
「タクシー呼ぼうか」
冬真が携帯電話を取り出すと、理紗は冬真の携帯電話を持つ右手を押さえた。
「なに?」
「ここに泊めて。話したいことが……あるから」
理紗の言葉に冬真は大きなため息を吐いてソファーを立つ。
「悪いけど、ここは駄目だ」
「さっき、店長さんが店に救急箱を取りに行っていた時、家に電話したから。友達のところに泊めてもらうって」
「じゃあ、友達の家まで行けばいい」
「友達なんていない。それに訊きたいこともある」
「訊きたいこと?」
「話したいことと……訊きたいことがあるから……こわいけど」
理紗は懇願するように冬真を見る。
冬真は理紗から視線をずらす。
沙世子と同じような顔で見られていると思わず頷いてしまいそうだ。
もう一度ため息を吐いて、冬真は携帯電話を開く。
またも楓に掛けようとしたが迷う。
こんな時間に自分からの電話だと浩介が知ったらどう思うだろうか。
冬真は浩介の番号に掛けた。