「ここで働いていたのか」
「そう。でもクビになっちゃったみたい」
「……やめたほうがいいよ。こういう仕事は」
「そう思う?」
「ああ」
冬真は、理紗に手を差し出す。
少し驚きながらも、差し出された手を取り理紗は微笑んだ。
「店に戻るの、癪だから、着るものを貸してくれない?」
冬真は頷き、自分のTシャツの上に羽織っていた紺の綿シャツを理紗にかけ、左肩を理紗に貸した。
「タクシーでも拾って帰ったほうがいいよ」
「父には、高校生の家庭教師をしていると言ってあるから、この姿じゃ、ね」
「……帰れないってわけか」
こくりと理紗は頷く。
「とりあえず、その恰好はなんとかしたほうがいい」
「それなら服、貸してよ。店長さんの家になら女物もありそうだし」
わざとそういう言葉を選んで言っているのだろうか。
理紗の表情の中には相手の反応を面白がるような小悪魔的な笑みが浮かんでいる。
沙世子の顔をして、沙世子ではない女。
冬真には無視したくても、無視することが出来ない。