「加藤、すまないな。」
「いえ。」
「お前は練習に戻ってくれ。」
はい、と顧問に返事をし保健室を出ようとした時、
龍之介先輩…と小さな声が俺を呼んだ。
声の方を振り向いてみれば
顔を真っ赤に染めしんどそうに目を少し開けている坂本さんが
小さい声で続けた。
「ありがとう…ございました…」
「ゆっくり休んで。お大事に。」
そう言って俺は保健室を後にした。
グランドに戻る前に汗を流しておこうと水道にやって来た。
蛇口を捻りながら俺は、
先程触れた女の人の感覚を思い出しながら違う女の人の事を考えていた。
…きっと七瀬先輩だったらこの暑さでも平気って言うんだろうな。
弱そうな身体してるのに結構丈夫だから…
とそんな事を思いながら鼻で笑った。
こんな事考えてるから坂本さんを七瀬先輩に間違えたりするんだ。
きっと去年、ここであんな事があったから…
全部、全部、あの日のせいだ…
そんな考えを洗い流すかのように
俺は勢いよく頭から水を浴びた。
-----1年後に貴方への気持ちを気付いた、8月。