その後あたしたちは500円均一の中からきっかり3000円分の商品を選ぶことに成功していた。
「こういうの、女の子同士じゃないとできないよね」
パンパンに膨れた買い物袋を提げて、菜々花が言った。
あたしも同じように買い物袋を提げて、「うんうん」と、頷く。
今日の買い物はすごく満足だ。
一年遅れと言っても流行を感じさせない商品も沢山あったから、気にする事なく選べた。
安いから想像以上の点数を買う事もできたし。
「よし、じゃぁくじ引きに行こうか!」
「そうだね!」
あたしたちが広場へと向かうと、そこにはすでに長い列ができていた。
「結構並んでるね」
菜々花があたしの前に並び、そう言った。
「本当だね。いつの間にこれほど人が集まったんだろ」
自分たちが買い物をしている間にお客さんはどんどん集まってきていたようだ。
「これだけの人数がいれば一等賞も簡単に出ちゃうかもねぇ」
「えぇ~、残念な事言うのやめてよ」
菜々花とそんなやり取りをして列に並んでいると、あっという間に順番が回ってきた。
「よし、一等賞を引くぞ!」
菜々花はそう意気込み、箱の中に手を入れる。
念入りにくじをかき混ぜて、一枚を引き抜いた。
三角におられているくじをめくると、そこに『5等』の文字が書かれているのが見えた。
「おめでとう、5等は菓子セットだよ」
はっぴを着たお兄さんはそう言い、箱の中からうまい棒の5本セットを取り出して菜々花に手渡した。
「えぇ~。お菓子セットってうまい棒しか入ってないじゃん」
菜々花は残念そうにつぶやいて列から外れた。
まぁ、一等なんて簡単には出ないよね。
そう思いながらレシートを見せてくじの箱に手を入れた。
一等とは言わないから、菜々花よりいいものが出ないかな。
そう思いながら1つのくじを握りしめて、箱から引き抜いた。
「はい、じゃぁ開けてみてね」
そう言われ、あたしはくじを開いてみた。
そして首をかしげる。
くじの中にはハテナマークが書かれていて、その下にQRコードが印字されているのだ。
「これってなんですか?」
聞きながらくじを差し出すと、お兄さんも不思議そうな表情を浮かべた。
「なんだこれ?」
くじの商品一覧のなかにも、ハテナマークなんて載っていない。
「聞いてみるから、ちょっと待ってね」
お兄さんはそう言うと、近くにいた店員を呼び止めて話を始めた。
「本当だ。なんだろうな、ハテナって」
その店員も首を傾げてくじを見る。
「もしかしたら別のくじが混ざったのかもしれないな」
「あぁ。それはあるかっもしれない」
結局そんな話で治まってしまったので、あたしはもう一度くじを引く事になった。
「おめでとう! 5等ですよ」
「うまい棒じゃん」
横で見ていた菜々花が笑って言う。
引き直して菜々花と同じ5等が出るなんてついてないな。
そう思いながらお菓子を受け取った。
「あ、さっきのハテナくじももらえますか?」
「え? これ別のくじだったら使えないかもしれないよ?」
「いいです。ハテナマークの入ったくじなんて珍しいから欲しいだけなんです」
あたしはそう言うと、お兄さんからくじをもらったのだった。
それからあたしと菜々花は夕方まで遊んで帰ってきていた。
あたしは部屋の中で今日買った服をだし、自分の体に当ててみたりしていた。
「500円には見えないよね」
鼻歌交じりにそう言った時、服の中からくじが一枚落ちて来た。
「あ、そういえば持って帰ったんだっけ」
ハテナマークのついたくじを拾いそれを確認する。
とくに変哲のない、普通のくじのようだ。
「このQRコードって読み取れるのかなぁ?」
別のくじがまざったのだとしたら、このQRコードを読み取っても景品がもらえる事はないだろう。
あたしはスマホを取り出し、軽い気持ちでコードを読み取った。
サイトはちゃんと存在しているようで、個人情報を入力する画面が表示される。
「これってたぶんショッピングモールのサイトに登録するってことだよね? これに登録したら景品が届くってわけでもなさそうだし……」
ぶつぶつと呟きながら個人情報を入力していく。
ショッピングモールはよく行くから、サイト登録をしてお得な情報をゲットしておいても損にはならない。
すべての打ち込みを終えて『登録』のボタンを押すと、『登録完了』の文字が表示された。
そしてその下に『一週間後、景品が届きます』と、書かれていることに気が付いた。
「え? 景品くれるの?」
画面に表示された文字にあたしは瞬きを繰り返した。
ということはこのくじは有効だったと言うことだ。
「やったぁ! ラッキー!」
あたしは思わずそう言って笑っていた。
使えないくじだと思って引き直しまでさせてもらえたし、菜々花よりも得をしている気分になる。
「景品って何が届くんだろ? ハテナマークのくじだから、きっとそれも内緒なんだろうなぁ」
あたしはそう呟いて、サイトを閉じたのだった。
☆☆☆
翌日。
学校へ登校してきたあたしはさっそく昨日のくじについて菜々花に話をした。
「え? あのくじも使えたの?」
菜々花も驚いたようにそう言ってくる。
「そうみたいなんだよね。サイトに登録したってなにもならないと思ってたけど、違ったみたい」
「それってお得じゃん!」
隣で話を聞いていた林ソラ(ハヤシ ソラ)が羨ましそうな表情でそう言って来た。
ソラもあたしたちのクラスメートで、昨日同じようにショッピングモールに言っていたらしい。
何度かくじ引きをしたけれど7等のポケットティッシュしか当たらなかったと言っていた。
「でも何が届くかわからないんだよね」
「それがまた楽しみなんじゃん」
ソラはそう言い、あたしの肩を叩いた。
「一等がヨーロッパ旅行だったでしょ? ハテナマークはその上を行く景品だったりして」
菜々花がそう言い、ソラが「いいなぁ~!」と、盛り上げる。
まだ何も届いていないのに、ハテナという珍しいくじがあたしたちの好奇心を刺激するのだった。
ソラと菜々花の盛り上がりのおかげで、あたしの期待も大きく膨らんでいた。
鼻歌を歌いながら家の玄関を開けると、突然お母さんがバタバタと走ってくるのが見えた。
「そんなに慌ててどうしたの?」
鼻歌を中断してそう聞くと、お母さんは「当たった! 当たったの!」と、大きな声で繰り返す。
「ちょっと落ち着いてよ。当たったって、一体なにが?」
あたしはリビングへと移動しながらそう聞いた。
すると今度はすごく小さな声で何かを言い始めるお母さん。
「なに? 今度は全然聞こえないけど」
「ショッピングモールの一等賞が当たったのよ」
小声でそう言うお母さんに、あたしは目を見開いた。
「え、それって3000円のくじ引きの?」
そう聞くと、お母さんは何度も頷いた。
一等賞はヨーロッパ旅行だ!
「嘘でしょ!?」
思わずそう聞き返すと、お母さんは「しーっ!」と、人差し指を立てて言った。
あたしたち以外に誰もいないけれど、慎重になる気持ちは理解できた。
「見て」
お母さんはそう言うと、エプロンのポケットからチケットを取り出した。
それには確かにヨーロッパ旅行ペアチケットと書かれている。
「本当だ……。お母さん、あたしを驚かせるためにチケットを自分で買って来たわけじゃないよね?」
「そんな事するわけないでしょ。そんなお金だってないわよ」
お母さんはそう言うと、ため息を吐き出した。
それもそうだよね。
あたしの家は海外旅行なんて1度も行った事がない。
「お母さん、旅行に行くの?」
「もちろんよ。これを逃したらもう死ぬまでヨーロッパなんて行けれないかもしれないじゃない」
それはちょっと大げさな気もするけれど、旅行に行く気満々だということはわかった。
「でもそれってペアだよね? お母さんとお父さんが2人で行くってこと?」
「だって、彩花は学校があるでしょ」
「それはそうだけど……」
ヨーロッパ旅行なんてすごいもの、あたしだって行ってみたい。
「どっちにしても彩花は無理よ? この旅行一か月滞在するんだから」
チケットに視線を落としてお母さんはそう言ったのだ。
「一か月!?」
「そうよ。ツアーで一か月間ヨーロッパを堪能できるチケットだったのよ。一か月も学校を休んだら進級できなくなるでしょ」
その言葉にあたしは返事ができなくなってしまった。
お父さんとお母さんの2人が一か月も家にいないと言う事が今までなかったし、そんな素敵な旅行に参加できないという悔しさが込み上げて来る。
「大丈夫よ、お土産はちゃんと買ってくるから」
お母さんはそう言い、楽しそうに鼻歌を歌い始めた。
「旅行っていつから行くの?」
「3日後の朝からよ」
「そんなに早く!?」
「お父さんのお休みが今じゃなきゃとれないのよ。少し急かなって話もしたんだけど、これを逃したら死ぬまでヨーロッパ旅行なんて……」
さっきと同じセリフを繰り返すお母さん。
お父さんはすでに休みを取っていると言う事は、今日まであたしには秘密にしていたと言う事だ。
確かに一か月間も学校を休んで行くことはできないけれど、もっと早く教えてくれたらよかったのに。
そう思い、あたしはふくれっ面をしたのだった。