それなのに……
ピーンポーン……
六時前、玄関のチャイムが鳴る。
慧太郎、断ったのに本当に来たの?
そう思ってあたしは扉を開けた。
これがいけなかったんだ。
扉の向こうには、背が低くて童顔のマダムキラー慧太郎がいると思っていた。
いつもの人懐っこい笑顔を浮かべて。
だけど、立っていたのは……
「澪ちゃん」
背が高くて男らしい顔つきだが、子犬みたいに弱々しい柏木さんだったのだ。
反射的にドアを閉めようとした。
だけど、柏木さんはドアを閉めさせてくれなくて。
柏木さんとはいえ、大の男。
あたしは家の中に逃げることなんて出来なかったのだ。
こんな時は大きな声で、「助けて」なんて叫んでやりたい。
だけどさすがに、それは出来なかったのだ。