コイツ、適当に返事してるな。めっちゃ視線は厨房の奥で焼いてるホッケをガン見してるしな。

手の中のビール頭からぶちかましてやろうかしらと不穏なことを考える私に、むっちゃんがちょっとわざとらしいくらいの明るい声をかける。



「あっ、すみれちゃんお兄さんいたんだ? 初耳だな~」



たぶんそのセリフは、情緒不安定な私を宥めるために使ったのだろう。

ピクリと一瞬反応を見せたのは、総司の方。だけど、それ以上は動くこともなく素知らぬ顔を通している。

コイツもたいがい過保護だよなあとつい苦笑しながら、私は改めてむっちゃんを見上げた。



「うん、いるよ。今はもう、死んじゃったんだけどさ」

「えっ、」



むっちゃんの表情が固まる。その後すぐ、気まずそうに眉を下げた。



「ごめん。辛いこと言わせて」

「ううん。もう10年も前のことだから」



陰鬱な雰囲気になるのが嫌で、顔は笑顔のまま努めてあっけらかんと話す。

むっちゃんが謝ることじゃない。だってもう、私たち家族は吹っ切れていることだから。



「お兄ちゃんね、小さい頃から野球やってて、それはもうめちゃくちゃ上手かったんだよ~。高校の部活の練習に、プロのスカウトの人も来てたんだから!」



お兄ちゃんのことを思い出すとき、悲しい気持ちが生まれないわけじゃない。

それでもあの人との記憶は、悲しみ以上のやさしさで溢れているから。


心からの笑顔で話す私を見て、むっちゃんも堅かった表情を緩める。