この男──尾形 総司(おがた そうじ)とは、昔っからこんな感じだ。

同い年の彼と私は、実家がお隣りさん同士。そのうえお互いの親たちも仲良しで、生まれてこの方丸25年の付き合いになる。

そんなシチュエーション、少女マンガなら恋が芽生えてるところだけど……あいにく私たちの間に、甘酸っぱい空気はこれっぽっちもない。

社会人になって互いに実家を出た今も昔のよしみでこうして会ったりはするけど、基本的に憎まれ口ばかりの喧嘩腰。というか、コイツが私を女扱いしなさすぎ。たぶん男と同じもんだと思ってる。

ま、それは自分のこのかわいげのない性格故だって、ちゃあんとわかってますけどね。だがしかし直す気はなし。



「ていうか総司、よかったの? さっき道端で会った人、そのまま別れて来て」



顔見知りの店員さんが渡してくれたほかほかのおしぼりで手を拭きながら、私は訊ねる。

今日ここへは、駅前で総司と待ち合わせてから一緒に歩いて来た。

けれど【むつみ屋】を目前に、この男が仕事の関係者らしき人と偶然出くわしてしまい。なんだか長引きそうな様子を見越して、私はとっとと先に店へと足を踏み入れたのだ。


まさかこんなに早く追いついて来ると思ってなかったから、つい、そんな言葉が出て来てしまった。

総司は私と同じくおしぼりを広げながら、「あー、大丈夫大丈夫」と軽ーく答える。



「あの人、話長いんだ。適当にあしらって来たから平気」

「さっすが、大手飲料メーカーの営業さんは言うことが違いますわー」

「なにそれイラッとする」

「勝手にイラッとしてろ」



いつものように憎まれ口を叩き合っていると、会話を聞いていたらしいむっちゃんが両手に生ビールのジョッキを持ったまま声に出して笑った。