総司が1歩こちらに踏み出したから、無意識に私は1歩後退した。


……こわい。

総司に対してこんなことを思うのは、初めてだ。

だって、こんな──“男”の顔をして話しかけてくる総司を、私は知らない。



「なんであんな……かわいいカッコして、他の男に笑いかけてんだよ。ずっと、その位置は俺のものだと思ってたのに」

「そ……じ、」

「俺は昔から、おまえしか見てなかった。……今さら、他の男に持ってかれてたまるかよ……!」



両肩を掴んで、見下ろされる。

すがるような瞳で私を見つめる彼は、私が知っている“尾形 総司”じゃなかった。


……今までずっと、自分の気持ちを隠して。

私に悟られまいと、怖がられまいとして来た彼の感情が、激しく溢れて私の中に流れ込む。


昔から、私たちはケンカばかりだった。

だけど私が幼稚園の同じクラスの男子に意地悪されたときは、総司が仕返ししてくれて。

お兄ちゃんが亡くなったあの頃、自分だって悲しいはずなのに、ずっとそばにいて慰めてくれた。



「……ッ、」



……総司。そうじ、総司。

私は、あんたのことが大事で……だから今日まで、それを隠すことなく接してきたつもりだったけど。

たぶんずっと、あんたに苦しい思いもさせて来たんだね。


──……でも。

それでも、私は。



「ご、め……」



みっともないから嫌なのに、勝手に涙が溢れ出す。

肩にかけたバッグを、ぎゅっと握りしめた。



「ごめ、ごめん、総司……っ」



私と総司は、きょうだい。……もうお兄ちゃんはいないから、唯一のきょうだい。

そう思ってた。これからもずっと、そんな関係でいられると思ってた。