「なに? ……いいよ、出れば?」



そんな、めちゃくちゃ機嫌悪そうな顔で言われても……。

けどまあ、着信に気づいてるのに出ないってのも失礼だよね。なんとなく心の中で言い訳しながら席を立とうとすると、ぐっと左の手首を掴まれる。



「な、」

「別に、ここで出りゃいいじゃん」

「………」



なに考えてんのコイツ、とは思いながらも、ようやく通話ボタンをタップする。

一呼吸置いた後、「もしもし?」と言葉を発した。



《……あ、すみれ? 今大丈夫?》

「あ、はい。……大丈夫です」



ちら、と一瞬総司に目を向けてから、私は答える。

うわあ、話しづらい。ほんと、なんなの総司。



「えっと、何か用事でしたか?」

《あー……いや、用事ってわけじゃないんだけど》



数秒にも満たない間の後に、ふっと、久我さんが笑う気配がする。



《ちょっと。すみれの声、聞きたくなって》

「……ッ、」



ぶわ、と身体中に熱が駆け巡るのがわかった。

これ、お酒のせいじゃない。久我さんの、不意打ちな甘い言葉のせい。

緊張しながらなんとか声をしぼり出す。



「え、えっと、そうでしたか……。あっ、今日の試合、おめでとうございます」

《あー、ありがとう。観た?》

「さっき、ニュースのハイライトで観ました。勝ち越しタイムリー」



言いながら、今は海外のテロ事件を報道しているテレビへと目を向けた。

久我さんがふーっとため息を吐く。