あの言葉が、本当にただの冗談だったのならそれでいい。

だけどもし、そうじゃないなら。私たちは、【むつみ屋】での出会いが初対面じゃなかったんだとしたら。

つまり私が、久我さんとの本当のファーストコンタクトをすっかり忘れてしまっていたということで。

……それってすごく、久我さんに対して失礼だよね?


頭を悩ませながら、お手洗いのドアを押し開ける。

そしてすぐ視界に映った光景に、私は目をまるくした。


ここからも見える、広香がいるテーブル席。

そこでどうしてか、さっきまで私が座っていた椅子で図々しくもくつろいでいるのは──……。



「……え、総司? 何やってんの?」



唖然としたままふたりに近付き、訊ねた。

総司は私に気付くと、くるりとこちらを振り返る。



「おー、すみれ。お疲れ」

「お疲れ……って、今日仕事休みだし。いや、ていうか、なんでここにいるの?」

「なんでって。たまたま寄ったら広香がいたから、しゃべってた」



思わず広香に目を向ければ、彼女は「偶然だね~」なんて言いながら枝豆をつまんでいる。


いや、うん。偶然はいいんだけど。



「そこ、私が座ってたんだけどなあ?」

「ふーん」

「『ふーん』じゃないわどきやがれ……!!」



あくまで席を返す気のなさそうな総司に、ぐっとこぶしを握りしめつつ表面上は笑顔で凄む。

そんな私たちの様子を見て、「ほんときみたち変わんないなあ」と広香は苦笑した。