洗面台で手を洗いながら、鏡の中の自分と目が合う。

そのときふと、久我さんと駅前で別れる間際──偶然総司に見つかった夜のことを思い出して、動きを止めた。


あの日私が先に電車を降りるまで、ずっと口数が少なかった総司。

私の腕を掴む手の力が、ガキんちょだった頃からは想像できないくらい強くて。

黙々と前を歩く背中が、びっくりするくらい大きく見えて。

なんだか知らない人みたいで、あのときちょっとだけ、動揺してしまった。


あたりまえ、だけど。いくらきょうだいみたいなものとはいえ……やっぱり総司も、男なんだよね。

そう考えるとなんだか寂しいような、複雑な気持ちになってしまって、小さくため息を吐く。


そして1週間前のあの日からもうひとつ、私の頭の中では引っかかっていることがあって。



『実は俺たち──……ずっと前にも会ったことあるんだって言ったら、どうする?』



ああ言った久我さんの瞳は、どこか切なげで。

その後すぐ「冗談だ」と笑ってはいたけれど……どうしても私には、彼の言葉がそんな軽口で片付けていいものに思えないのだ。


本当に、私と久我さんは過去にも出会ったことがある?

でもそれは、いつ、どこで?


あんなに目立つ人、前にも会っているのなら、覚えてないはずがない。

だけどどうしても思い出せなくて、ここ最近ずっと、ひそかに歯がゆい思いをしているのだ。