私はジョッキを強く握りしめると、中に残っていたビールを一気にあおった。

ガン、とやたら響く音をたてて、カラになったジョッキをテーブルに置く。



「もーーームシャクシャする! なんであのチャンスで! 点が入らないかなあ!!」

「スイッチ入ったなぁすみれ」

「ギャップ女子だねぇすみれちゃん」



男ふたりがなんだかしみじみ言ってるけど、今は耳に入らない。

アルコールの作用もあり、もやもやしすぎてむしろ泣けてくる。中身のないジョッキを両手で持ちながら、私は半ベソだ。



「うう……っここ最近、ウィングスに全然勝ててないのシャークス……っせっかく、せっかく昨日は、逆転勝ちできると思ったのに……っ」

「すみれちゃん情緒不安定だなあ」

「生理近いんじゃね?」



乙女のデリケートなイベントのことをさらっと口にするデリカシー皆無男には、一瞥もくれず弁慶さんキック。

「いってぇ!!」とすねを抑えて悶える総司を華麗にスルーして、私の愚痴はさらにヒートアップだ。



「散々期待させといて、まさかのダブルプレーだなんて……っ野球の神様むごい……っ」

「いや、あれは打球のいった方向が悪かっただろ。打つ方も守る方も今ノリにノッてる久我じゃあなあ」

「なんなの、なんなのあの強肩は……! あの深いとこからノーバンでホームって!! めっちゃゾクゾクしました!!」

「すみれちゃん、褒めてるんだかけなしてるんだか変態なんだか」

「うう~あのレーザービームさえなければ……っくそっ、久我 尚人のバカヤロー!!」



最後は個人的な恨みになってしまった。だけどそれだけ悔しかったんだもの!

ふと、目の前にいるむっちゃんがきょとんとした顔をしているのを視界に捉えた。私を通り越した向こう側を見つめ、なぜか動きが止まっている。