「やばっ!めっちゃかっこいい!」
「さすがだよね~!」
「王子様って感じ!」
朝から飛び交う女子の歓声。
黄色い声が様々なところからしてくる。
そんな声も、もう慣れた。
高校に入学して1年。
今日から晴れて、高校2年生。
1年も同じ言葉を聞いていたら、さすがに慣れる。
そんなにかっこいい人なのかって?
そんなにイケメンな王子様がこの学校にいるかって?
そんな夢物語、あるわけない。
「相変わらずモテモテですねえ~。」
「どうにかなんないの?あれ。」
別に王子様がいようが、イケメンがいようが。
その人に向かって黄色い歓声を浴びせようがなんでもいいんだけど。
何が不愉快かって。
「そこら辺の男子よりモテてるもんね、香澄(かすみ)。」
その黄色い歓声が、私に向けられてるってこと。
そりゃ、まあ、誰かに嫌われるとか、嫌な噂流されるよりはましかもしれないけど。
それでもさ。
これでも私、女子なんですけど。
「誰がイケメンだよ、まったく。」
でも、自分でも認めたくないけど、私に黄色い歓声が浴びてるのは事実で。
それもそのはず。
身長169cm。
平均身長より高いし。
真っ黒なドストレートな髪の毛は、腰まで伸びた。
「香澄が男だったら、私絶対に彼氏にしたい!」
隣でヘラヘラ笑ってるのは私の友達。
大澤美華(おおさわ みか)。
私と比べて、151cmの低身長で、フワフワのボブヘアー。
周りからは凸凹コンビなんて言われてるらしい。
性格はそこまで“女の子女の子”してない。
だけど、小柄で華奢な印象から男子からは人気のある子だ。
まあ、美華自身男子から人気があることに対してなんとも思ってないっていうか、興味無いらしいけど。
私だって、そりゃあ男子からの人気だってほしい。
私にあるのは人気というか、憧れ?
男子から憧れられても困るけどね。
「美華みたいにTHE女子!て感じがよかったんですけど~。」
「香澄は香澄でいいと思うけどな~。」
いや、美華がそう思ってても私は嫌なんだって。
今までろくに恋愛なんてしてこなかった。
いるのは彼氏じゃなくて、男友達。
進んでも異性の親友、で終わる。
見た目だけじゃない。
中身も結構サバサバしてて、男っぽい。
だから、恋愛なんて私には遠い未来。
「そろそろ、イケメンとか言われるの辛いんですけど。」
「それでも1年耐えてきたじゃーん!」
耐えたくて耐えてるわけじゃないけどね?
いちいち気にしてても、気が疲れるだけだし。
だけど私だって、普通の高校生活が送りたいわけで。
廊下歩けばキラキラした目線を浴びせられ。
身長を活かして去年の球技大会にバレーボールに出ればアイドルのコンサートかよって思うほど盛り上がり。
それを機にバレー部から入部をしいられ。
男子にすら憧れの目を向けられ。
私の高校生活はこんなはずじゃなかったのに。
みんなに憧れる反面。
『男癖悪いらしい。』
『やばいヤツらとつるんでる。』
『夜の仕事してるらしい。』
ありえない、噂も流されたり。
とりあえず、忙しい日々で。
好きでこんな立場にいるわけじゃないし、注目を浴びたい女子がいるなら譲りたいくらいだし。
そんなことが出来るわけもないから、今こうして変わらない日々を過ごしているんだけど。
「いつになったら、普通の女子高生に戻れるわけ?」
「ぷっ。いたって普通の女子高生じゃん。」
ひ、他人事だと思って~~~っ!
どこに女子からモテモテで、男子から憧れるような女子高生がいるかっての!!
羨ましいって思ってる人もいるかもしれない。
だけどこういう生活、案外疲れるんだ。
「あーあ。私だって彼氏のひとりやふたり......」
私もお年頃の女子高生。
いくら性格がさばさばしていようと、憧れくらいある。
学校でも、ラブラブしてる生徒もいるわけで。
きょ、興味なくても、い、一回くらい彼氏のいる生活もしてみたいな、なんて......
「あー!もう、やめだやめ!腹立つ!彼氏なんていらないわ!面倒だし。」
「ひとりで忙しいね。」
私は、隣にいる美華が羨ましい。
女の子の象徴みたいに可愛い美華が。
私だって、なりたくてこんなふうになったわけじゃない。
いつからこんなことに..........
中学生になってしばらくしてから、何となくみんなに注目されてるなー、と感じ始めて。
高校に入学したら、中学校のとき以上だ。
「美華~、交換しようよ~。」
「いや、私だってできることなら香澄になりたい。」
と、真剣な眼差し。
いや、そんな私になりたいだなんて、考えられない。
こんな男勝りな女、なりたい人なんているの?
「や、やっぱ、美華は美華でいて。」
「香澄、今日変だよ?(笑)どうしたの。」
こんな生活してたら、変にだってなるわ!
あと、2年で卒業だし。
なんとか乗り切るしかないな。
今日から2年生と、言うことで、クラス替えが行われる。
朝、校門で待ち合わせてクラス表を一緒に見に行きながらそんな話をしていた。
美華とは、1年の時に同じクラスになって仲良くなった。
だから、2年になってクラスが離れたらどうしようという不安しかない。
「いよいよ、運命の時だね。」
みんなが戯れているのは新しいクラス表の前。
同じクラスになれて喜んでいる人たちもいれば、クラスが離れ離れになって悲しそうにしてる人もいれば様々だ。
クラス表を見ることが出来るくらい、人がはけるのを待つ。
しばらくして、クラス表が見える位置にやってきた。
必死に自分の名前を探す。
「あ、2組だ。」
2組に見つけた遠藤香澄(えんどう かすみ)の文字。
「香澄。」
「美華.......」
「私も2組。」
「..........キャァァァッッーーー!!!!」
ふたりで大声を出して叫んだ。
また、同じクラスだ。
「一緒になれたーーーっ!」
「まじ感動なんですけどお!」
ふたりで抱き合って喜び合う。
また1年、美華と過ごせる。
2年生は、修学旅行もあるし、楽しい行事もたくさんある。
「行こっ!」
ふたりで教室に向かった。
教室につくと、見たことのない顔ぶれがたくさん。
ここにいる人たちと、1年過ごすんだ。
名前の順に並んでいる机。
私と美華は、1年の時も“遠藤”と“大澤”で机が前後だった。
そして今年も、前後の席だ。
私が前でその後ろが美華。
机について私は後ろの席の美華の方に振り替えり、ふたりで雑談。
「今年、香澄ちゃんと同じクラスだ!」
「嬉しすぎ!」
「あの子が噂の遠藤香澄じゃん。」
ひそひそと聞こえてくる声。