店員が持ってきたグラスを手に取り、席を立とうとするあたし。

「あ、俺が入れてくるよ。何がいい?」

心地いいほどに、深町は気を利かせてくる。

「あ、じゃあ……烏龍茶。あたし、ちょっとお手洗いに行ってきます」

控えめに頼むあたしは、料理が来るまでにメイクを直そうと、鞄を持ってトイレへ向かった。


「……簡単な男」

美緒ちゃんの話を聞いていたから、一筋縄ではいかないかもなぁって思ってたけど、この調子じゃ2週間くらいで落とせそう。

油とり紙を捨ててファンデーションを持つあたしは、上機嫌で鼻歌まで口ずさむ。

そう、このときのあたしは何もかも順調に進んでいると思い込んでいた。

メイク直しをして、トイレを出るまでは。