「あ、文庫本の……」

自転車に鍵をさしていた彼は、あたしを見て驚いた表情をする。

「はい、父の代わりに探していた者です」

ここだけはきちんと否定しておきたい。

にっこり微笑みながら、あたしは彼にペットボトルの炭酸ジュースを差し出す。

「え?」

「バイトが終わるのを……待ってたんです」

ジュースを見て首を傾げる彼に、恥ずかしそうにうつむくあたしは、途切れ途切れにそう告げた。

「え……、どうして?」

深町は動かそうとしていた自転車のハンドルから手を放し、少し考えているようだった。