「……あのさ」

電話の向こうから、ため息と一緒に囁かれる。

「俺、時間より10分前に着くよう、家を出てるんだけど? まだ遅刻じゃねぇだろ?」

顔を見なくても、どんな表情で言っているのか、目に浮かんだ。

きっと、いつもみたいに冷めた目をして、街中を歩いてる。

「な、何よ!? 1時間前に着いたあたしが悪いって言うの!?」

せっかく早起きをして、出てきたっていうのに……。