「あ、今日は人の代わりでバイトに入ってるって、さっきお母さ……」

「わかった。ありがとう」

家にはいないことがわかり、あたしはまだ話している弥生ちゃんの声を止めて、会話を終わらせた。

急いだ、駆け足で。

傘に当たる雨の音を聞きながら、あたしはかたい表情のまま、濡れたアスファルトを踏みしめる。

靴の下からピチャリと弾む、水。

今のあたしには、バイトが終わるまで待つような余裕なんてない。

TAMAKIの入り口で傘を閉じ、濡れたブーツも気にせずに、2階へ向かう。

店内に流れているのは、流行りの甘いバラード曲。

これほど、今の気持ちに合わない歌はない。