小学生の頃から数えて、4回目の転校となった中二、

ーー冬。


長崎は佐賀より暖かいって聞いたことあるけど
全然変わらない。

寒いのは寒い。


「あ、あれだ、三組の転校生」

「真っ白やな」

「ほっそーい」

「ちょい老けとらん?」



転校初日に浴びる好奇心丸出しの視線にも、もう慣れていた。




「はい、緒先、自分で自己紹介して」


「……」


先生が黒板に ″ 緒先 遥香″ と書く横で、私は
緊張感を出すこともなく、


「緒先遥香です。宜しくお願いします」



新しいクラスメート達の誰とも視線を合わさずに軽い挨拶だけを済ませた。


ここで無理したらあとがキツイってこと、

もう、わかってたから。









愛想よく笑う必要はない。


「定番だけど、真ん中の列の一番後ろの席な、あそこに座って」


担任の先生が指し示した席、そこに向かう間も、誰とも目を合わせなかった。



少し下を向けば、顔が隠れる長い前髪。

前の学校では良く先生に怒られたっけ。



「一ノ瀬、いいなぁ、転校生の隣」


私の隣の席は、″一ノ瀬″ っていう人か。


皆の注目をまだ浴びていることは分かっているので、隣の席の人さえも見ないで椅子を引いた。





「教科書とか、揃ってるの?」




席に着いたとたんに、その一ノ瀬くんが声をかけてきた。

仕方なく前髪の間から隣人の方を見る。



「まだ揃ってないんなら見せるよ」



無造作だけど、サラサラな髪。

大きな目、優しそうな口元。



その口元が、初対面の私に、にこっと笑顔を作ってる。



……なんだ、このひと。


恋愛映画の爽やかヒーロー意識してるの?


そう思うほど、清潔感ある爽やかな男の子。




「……全部持ってるよ」




……苦手なんだ、こういう八方美人タイプ。

親切なのは始めだけでさ。


小学校の時ほどではないにしても……。

「緒先さんて、東北の人なのかと思うほど色白だよねぇ」

「佐賀のどのへんに住んでたの?」

転校初日にはいろんな人が話しかけてくるので、休み時間は絶えず息抜きできない。



「母親が色白だから。佐賀は有田ってところだよ」



シカトもできないから、聞かれたことには一応答えてみせた。


余計なことは言わない。




「……へぇ、そぉ」


興味本意で近寄ってきて、イメージよりもかなりツマンナイ奴だと察知した子は、もうそれ以上は話しかけてはこない。



これでいい。


無理して話題を広げる必要もない。

苦手な複数人との対話でKYな発言をして、
話をストップさせる常連でもあったから
、私は聞かれた事だけ答えるようにしていた。







透明なバリケードを張ったつもりだったのに、

……なのに、この一ノ瀬くんときたら、



「緒先さんの前の学校って給食だった? 弁当だった?」


「え……給食……」


「えー、マジか! いいなぁ、ここは弁当制だから憧れるよなー!温かい飯!」


「……給食、めんどくさいよ何かと」

「当番とかエプロンとかだろ? それでもお代わりし放題だし、いろんなオカズあるからさー俺は早く長崎県の義務教育過程すべて給食制に切り替わることに大賛成なんだよっ」


やたら喋る。

「お代わりし放題では、ないけどね」



おまけに、人気者なのか。
休み時間は、この人の周りに多くのクラスメートが集まる。


それがなんかもう息苦しくて……。

四時間目の前の休み時間は席を立った。




「あ、緒先さん!次、理科の移動教室だから」




「……」



男の世話焼きってのも、なんか、うざったいのよ。










あてもなく教室を出た際、入り口で一人の男子とすれ違う。


なるべく人の顔を見ないようにしてたのに、

何故か私が振り返って見たその男の子……



その子も、私の方を振り返って見てた。




……ドキッ……。



一ノ瀬とは違って、細いというか、スッキリした目元。

……なんか鋭い。


やば。

怖そう。




「あー、海也、今ごろ登校してきた!」



前の学校でも、この学校でも見たことのないような、金色に近い茶髪の男子。

学ランの中身は派手なトレーナーを着て、ズボンは腰じゃなくて、お尻で穿いてるみたい。




「今までなにしてた?」

「寝坊……」

どこから見てもヤンキーの海也という子にも、
一ノ瀬は隔たりなく話しかけている。

本当に気さくなのかもしれない。




「さっきの女、誰?」




私の耳が拾った海也の声と言葉は、全然気さくじゃなかったけど。