竜崎が傘を返しに優季のところへ来たのは、お昼休みのときだった。
「...ごめん、
四宮さん呼んでもらってもいい?」
竜崎は遠慮がちに2組の生徒に声をかける。
「四宮さん、なんかすっげーイケメンが
四宮さんのこと呼んでるよ!」
そのクラスメートの声が思いのほか大きく、まわりは少しざわついている。
「お!来たんじゃない?竜崎くん!」
「気になるなら瑠璃も来る?」
「んーん!待ってる!
優季が男子と2人で話してる姿、
しっかり眺めとくね!!」
「はいはい。」
そうしてわたしは廊下に出る。
「ごめん、お待たせ。」
「いや、大丈夫だよ。
これ、昨日はありがとう。
すごく助かった。」
「全然大したことしてないし。
役に立てたならよかったよ。」
「俺、もっと四宮さんと関わりたいな。」
「え?」
「や、なんか、もっとクールなイメージが
あったから。
他の人が知らないような1面見せてくれて
嬉しかったし。
だから、もっと知りたいなって...」
「わたし、竜崎くんが想像してる私像より
ずっとつまらないだろうし、性格も
よくないと思うよ?」
あ、
また悪い癖で。
相手の言うことバッサリ切っちゃった。
傷付けたいわけじゃなかったのに、今回は。
「...うん。だから知りたいの。
だから仲良くなりたい。」
まっすぐ見つめられる。
ああ駄目だ。
この感じもすごくハルくんにーーー...
「おーーい!ハル!!購買行こうぜー!」
..................................................え。
今のは聞き違い?
いや、でもたしかにきこえた。
「おー、先行っててー!」
返事する竜崎。
今さっきハルと呼ばれていた人。
「あの...竜崎くんの下の名前って。」
「...春(ハル)だよ。竜崎春。
俺のことも名前でいいから優季ちゃんっ
て呼んでもいい?」