私はあなたの持つ負の感情でできた、あなたの妄想のようなものです。そして私は、その感情と共に消えなければならなりませんでした。だけどあなたから奪い取った負の感情は、復讐することしか考えていませんでした。消えようと思って何度も自殺を試みましたが、怪我が増えるだけで私が消えることはありませんでした。そんな感情を育ててしまったのは、柊茉優と岡崎拓海。だから私は、彼らを殺さない限り消えることができないのです。


柊茉優は、私とあなたを見て「二人」と言いましたよね。彼女が混乱していた理由は簡単です。負けてたまるか、という気持ちがあなたの中にはあったと思います。死への考えなんて持っていなかったと思います。そしてそのときの姿は、間違いなくあなただったんです。一方で、このまま死んでしまいたい、消えてしまいたいという気持ちになるときもありました。そのとき柊茉優や岡崎拓海の眼に映っていたのは、私だったんです。


おそらく柊茉優や岡崎拓海には、あなたもしくは私に関する記憶が曖昧になっていることがあると思います。それは、自分たちが見ていたのは、あなただったのか、それとも私だったのかということです。私はあの頃の全容を知っていますし、あなたも当然知っている。だから私たちにも、彼らがどちらを見ていたのかなんてわかりません。もしかすると、両方を同時に見ていたのかもしれません。


感情を失ってしまえば、人は誰よりも強く生きられるんです。喜びを感じなくても、楽しく思えなくても、損なんて誰もしないじゃないですか。哀しみや怒りなんて、感じているだけ無駄じゃないですか。何も考えないで生きていくことができれば、そこにストレスなんて何もないし、ただ死へと向かって走っていけばいい。こんなに楽なことはないと思うんです。


あなたは死に対する考えを持っていなかった。でも、あなたにあるのはこの世界に対する絶望だとか自分を卑下する感情ばかりで、生きることへの執着もなかった。私は思ったんです。きっとあなたのような生き方をする人が一番、苦しいんだって。だから私は、あなた自身に対する怒りや哀しみを取り払おうとしたんです。そしてすぐに消えようとしたんです。


けれどさっきも言ったように、あなたから奪った感情は、柊茉優や岡崎拓海に対する復讐に燃えていて、私が自殺を何度試みても、しぶとく生きようとしていました。生への執着は、あなたから奪い取った負の感情の中でこそ息をしていたんだと、そのときようやくわかりました。つまり私は、彼らに復讐をするために生かされているんです。


あなたはこの世の終わりを見つめるような眼をしています。何もかもを知っているような眼をしています。全てを見透かしているような眼をしています。きっとこうなることも、どこかでわかっていたのではないかと思います。だからあのとき、「僕は将来、その答えを知ることになるから、今考える必要はないよ」と言ったんですよね。さっきまでわからなかったのは、それをあなた自身が認めようとしなかったからです。だけど現に私はここにいて、本来ならば出会うはずのない私たちは出会ってしまった。


過酷でしたけれど、楽しかったですよ。こんな言い方をするのは変だと思いますけど、私、死ぬのが楽しみなんです。死んで、あなたが死へと向かって生きていくことが楽しみなんです。生への執着はきっと、あなたには必要ないんだと思います。「死にたい」と思いさえしなければ、「生きたい」という感情がなくてもあなたは誰よりも強く生きていける。「死にたい」という気持ちは私の中にあります。その中には「生きたい」という願望も入っています。でもその願望は、彼らに復讐をするためだけのものです。だから私が柊茉優と岡崎拓海を殺して、私も一緒に死ぬんです。あなたが私を、殺すんです。私はあなたに殺されるために、ここに存在しているんです。