「わかったよ」


折れたのは僕だ。


「そのときは僕が君を終わらせる。だからそれが終わったら、ちゃんと認めてくれよ」


彼女の命を終わらせた時点で審査員となる彼女はもういないとわかっていながら、それでも僕は言った。彼女のことだから「ばかなんですか。私、いないじゃないですか」なんて当然のことを言うのだろうと思っていたけれど、僕の思考力を再び超えてきた。


「いいですよ」


そう言ったのだ。その顔には、ほんの少しの笑みが見て取れた。厳密に言えばさっきまでの無表情と何ら変わらないのだけれど、僕にはその違いがわかった。


ただし、と彼女はまた言った。


「もう一つ、条件があります」


なにやらまたとんでもないことを突き付けられそうな気がしてならないのだけれど、仕方なく僕はこれから彼女が僕に与える条件を聞くことにした。


「復讐をしましょう、私と」


先ほどまでと変わらない顔で、そして彼女の綺麗で整った顔には似合わない言葉を、淡々と放ってみせた。


ふくしゅう。フクシュウ。復讐。頭の中で反芻してみたけれど、きっと僕が思い浮かべている〈ふくしゅう〉と彼女の言う〈ふくしゅう〉は同一の意味を持つものなのだろうと思う。そうでなければ、こんなにも素直に胸の中に収まるわけがない。


「誰にどんな復讐をお望みですか」


何をもって復讐とするのか、何のために復讐をするのかなんて僕にはさっぱり理解できないけれど、断ろうとは思わなかった。悪いことだとも思わなかった。おそらく条件として投げかけられたからだろう。
誰にどんな復讐をしたいのかなんてことを僕が聞いてもわからないのだろうけれど、まるでお嬢様を相手にするかのように丁寧に尋ねてみた。何かしらの答えが返ってくると思ったのだ。そしてその予想は当たる。


「簡単な話です」


相変わらず彼女は絆創膏だらけの表情を変えない。今にも消えてしまいそうなその瞳に何が映っているのか、何を映してきたのかなんてとても想像できない。感情というものをどこかに捨ててきたかのような顔で言う。


「私をこんな風にした人間を、私と一緒に殺してくれればいいんです」


全身を絆創膏と包帯に覆われた人間が何を言っているんだ。彼女の言葉を聞いて最初に感じたことは、それだった。簡単に折れてしまいそうな細い腕と脚。そんな華奢な身体で人一人殺せるわけがないじゃないか。


「こんな風に、と言うと?」


疑問点であるとか無茶な点についてはあえて触れなかった。


こんな風に。傷だらけということなのか、それとも死んでしまいたいと思っているのにそれを成し遂げられないということなのか。あるいは――。


死なせてもらえない身体になってしまったことなのか。