「いい映画だったな」



映画が終わりグッズを見てひとしきり騒いだあと、映画館から明るい太陽の下に出た。お茶でもしようと近くのカフェに入って注文を済ませたあと、浅田さんがわたしに話をふる。

そうですね、とわたしは曖昧に笑った。



確かにいい話だった。学生から社会人に至るまでの純愛ラブストーリー。すれ違いから別れたふたりが再会したところでは思わず口元を手で押さえてしまった。

確かに感動した。だけど、いつもより感情移入ができずにいた。



隣にいるのが、友だちでも彼氏でも、好きな人でもなく────浅田さんだということが気になって。



大切にしてくれていることがわかる。きっと彼といたら、真由が言っていたようにわたしは愛されている実感を得ることができるだろう。

硬派な浅田さんは浮気なんてしないし、わたしだけを見て、想ってくれる。優しくしてくれる。



わかっているのに、……違うんだ。



愛したいし愛されたい。わたしはそう願っているけど、だけど、その割合は愛したい方が大きい。

わがままなわたしは、愛した人に愛されたいんだ。



「水瀬」



名前を呼ばれ、はっと顔をあげる。浅田さんの瞳にわたしがうつり、自分の表情がなんとも情けないことにどうしたらいいかわからなくなる。

その様子を見た彼は困ったように眉をさげて、ぽつりぽつりと探りながら言葉を選ぶ。



「加地は、どうしようもない女好きの遊び人、だよな」

「えっと……はい」



予想外な話題に戸惑いつつも、間違いではないからそうですね、と応える。確かに加地さんの女性関係はどうしようもないと評されてもおかしくない。

だけど突然のことに、どういう話なのかと思わず警戒してしまう。