最近映画を見に行った相手はおらず、1番新しい記憶では賢治だったせい。彼と行く時はいつも先にチケットを交換していたけど、もしかしたら浅田さんは先に飲食のものを手にしておきたいのかもしれない。

気が利かないことに申しわけなく思っていると、浅田さんは「違う」と首を横に振った。



「そんなことしなくていいんだ」

「え、でも……」



今まではずっと、わたしがしてきたこと。それが当然だと思っていたのに、浅田さんにとっては違うみたい。

戸惑うわたしをその場にとどめて、大丈夫だからと言う。



「俺が行くから気にするな」



きっと、浅田さんはわたしとは違い、そんなふうに尽くすことには慣れていない。なんだか少しぎこちなく、戸惑う。

だけどなにが飲みたいかと訊かれ、わたしはまごつきながらもアイスティーと答えた。



そしてすぐさま彼はその場を離れた。まずはチケット引換所へと向かう背中を見つめながら、わたしはそっとため息をこぼした。



わたし自身はなにもせずに、ただわたしのためになにかをしてくれている人を待つ。それは本来女性として感謝するだけでいいはずなのに、尽くすことに慣れきったわたしはこうした時間を持て余してしまう。

浅田さんが頑張ってくれているのを感じるのに、素直に嬉しいとは思えない。



無理しないでくれていいのに。わたしならいくらでも動けるから、彼が気にするようなことではない。

気を遣わせて、互いに折り合わなくてはいけないなんて。

それってなんだか、違う気がする……。



ぼんやりと考えていると、自然と視線がさがっていたらしい。待たせたな、と戻ってきた浅田さんに声をかけられ、慌てて顔をあげた。



「あ、ありがとうございます」



彼の手にある、飲みものの乗ったトレーを受け取ろうとすると当然のように断られる。気になるならと渡されたふたり分のチケットを握り締めた。

広いとは言えない館内を浅田さんに着いて行く。ぽすぽすと靴の衝撃を吸収するフロアを横切り、館員の人に案内されたスペースの席へと向かった。