あまりにも正直な彼女の言葉に動きがとまる。口を出せずにいた真由がさすがにとめにはいろうとするも、佐野さんは気にとめず話を続ける。



「前からあんたのことは嫌いだったのよ。
重いだのなんだの言われようと基本的にはみんなあんたが好きで、いつも笑っていて、……あたしとあんまりにも違うから」

「佐野さん……」

「だから嫌いだった。加地さんが構うのが許せなかった」



それは、はじめて聞いた、彼女の本音だった。



胸に突き刺さるようなことがたくさんあり、辛い面もある。そんなことない、違う、と首を横に振りたいことだって。

それでも、昔から影で言われてきたことを直接わたしに告げる、彼女の正直なところが好ましいと思う。



「ただ、この前『加地さんは優しい』ってあたしの話を遮ってくれたことだけは、感謝している」

「どうしてですか」

「そうじゃなかったら、彼と仕事なんてできていなかったと思うから。彼を今よりもっと傷つけていたから」



ゆっくりとしたまばたきのあと、開かれた瞳は強い。まっすぐな視線に射抜かれる。

とても凛とした、美しい表情だった。



「あんたが浅田さんを選ぼうが、加地さんとなにしようが、応援はしない」

「はい」

「でももう、邪魔もしないわ」

「……はい、」



佐野さんに好意を向けられることは、きっとない。今までもこれからも、そんなのはありえない。

だけど、確かに許された。認めてもらった。こんなにも彼を、同じ人を想う人に。

それはきっと誇りにしていいはずだ。



「……好きにすればいいわ」



こくりと頷いて、にじみそうになる涙を必死でこらえた。



「わたし、佐野さんのこと好きです」

「鬱陶しいこと言わないで。あたしはあんたなんて嫌い」



ふいと顔をそらして、いやそうな顔をする佐野さん。こくりとお冷を口にしたところで、注文した夏野菜カレーが届いた。

彼女が受け取っているすきに、真由と目をあわせた。その瞳が「よかったじゃない」と物語っていて、わたしは素直に笑った。