麗が学校に通わなくなった直接の原因を、ぼくは知らない。


なぜ両親との仲がおかしなことになったのか、それもよくわからない。


ぼくという逃げ場があったことは、言葉は悪いけれど、麗にとって不幸中の幸いだった。


そして朝綺と出会ったことは、この上なく残酷な幸運だった。



 朝綺が麗の寝顔を見つめている。


こんなに穏やかな目をする男だったかな?


胸がチクリとした。


妹を悲しませる存在のくせに、妹の心を奪った朝綺が憎らしい。



「麗ちゃん、おれのベッドを使えばいいのに。床の上で膝を抱えて寝てたんじゃ、体が痛くなるだろ」