佳珠音と俺はクラスが違うから佳珠音をクラスまで送って自分のクラスへ戻った。
席について次の教科の準備をしているとやがてチャイムがなった。
先生が教室に入るのと同時に一真と啓が教室に駆け込んできて席についた。
「お前どこに居たわけぇ?
てかメールみた?」
隣の席の一真が息をきらしながら喋りかけてきた。
「あぁーメールみてねぇや。
佳珠音といたから。」
「は?
何で佳珠音と?」
「おい、そこっ静かにしろー」
「…」
一真は先生の注意に少し不満そうに話すのをやめた。
授業中も一真は何か聞きたそうにしていたが、授業は真面目に受けるタイプの俺は一真にかまわずに授業をしていた。
『キーンコンカーンコーンキーンコンカーンコーン』
チャイムが5限の終わりを告げる。
「おい!
こう!
さっきのどう言うことだよ!」
「どう言うことって、そのまんまの意味だけど。
ほら次体育だから更衣室行くぞ。」
俺は体操着を手にして歩き出した。
「ちょっ、待てって!」
一真が慌てて体操着を手にして着いてくる。
啓がドアの所で待っていた。
「ちょっ聞いてよけい~!
こうがさぁ昼佳珠音といたらしいんだよ。」
「へーそうかぁ。
ふーん。
そう言うことか。」
啓はやっぱり分かったようだ。
鋭いからな。
「はっ?!
そう言うことって何だよぉー」
「まぁ一真は馬鹿だから分からないな。
けい、馬鹿はほっといて体育いこうぜー。」
「そうだな。」
「ちょっ二人とも酷くない?!」
「まぁ放課後話そうぜ。」
俺の提案に一真は渋々頷いて後を着いてくる。
きっと放課後一真に騒がれるんだろう…。
啓は女関係激しいし、その理由も色々あるから、俺に何も言わないのは分かってるけど、多分一真は納得しない。
啓がよく一真に女関係の事で怒られてる。
多分俺も怒られる。
まぁ仕方ないけど。
放課後になって三人で部室に向かった。
一真は体育の時も、それが終わってからも、今も、事情を聞きたいらしく落ち着きがない。
何度も
「今教えてくれたっていいじゃねぇかぁー」
って言われたけど
「放課後な」
俺はそう言ってかわした。
それは今騒がれても、怒られても面倒だし、何より佳珠音と俺の本当の関係が多くの人にバレるのは避けたかった。
なるべく普通の彼氏彼女で見られた方が、佳珠音にも俺にも都合がいいから。
「でっ!
どういう意味なんだよっ!」
部室に着くなり一真が聞いてきた。
俺は小さくため息をはいて、
「俺、佳珠音と付き合うことにしたから。」
「はぁ!?
お前いきなりどうしたんだよ!?
ゆきちゃんの事は!?
好きなんじゃなかったわけ!?
てか◎※△×$!」
「お前煩い。
一気に喋んな。
めんどくせぇ。」
一真が一気に聞いてくるのを、啓が口を押さえて止めた。
啓が一真を解放すると、一真は息苦しかったのか、それとも落ち着くためか、肩で息をした。
「で、どういうことなわけ!?」
「どういうことって言われても、そう言うこととしか言い様がないんだけど…」
「ゆきちゃんのことは!?」
そんなこと言われても正直困る。
「んー…」
俺が困って言葉に詰まっているのを見て、啓が口を開く。
「お互いの気持ち知った上でなんだろ?」
啓は一真ではなく俺に質問をした。
「あぁ。」
俺は頷きながら短く返事をした。
「そうか。」
「そうかって!
ちょっ!
そんでいいわけ!?」
「黙れちびっこ。
恋愛に他人が口挟んだって意味ねぇんだよ。
恋愛は本人どうしの問題だ。
こいつがいいっつうなら、見守るしかできねぇんだよ。
他人が口挟む問題じゃねぇ。」
「っつ………
分かったよ。」
啓が少しふてくされたように言った。
一真がつっかかったのも、啓がそれをとめたのも、それは二人の優しさだから
「一真も啓もありがとな。」
礼を言ってちょっと頭を下げた。
「……ん。」
一真は納得してない感じだったけど、ちいさく返事をした。
そんな一真の髪を啓は両手でくしゃくしゃにした。
「何すんだよ!」
啓はそんな一真から目を離し、窓の外の空を、遠くを見つめて呟く。
「お前は一生わからなくていい。
わからない方がいい。」
啓は眉間にシワをよせたが、俺にはなんとなく分かった気がした。
悲しい恋の想いなんて、少ない方がいいから。
本物じゃない恋に安定するだなんて、一生知らなくてもいいから。
あぁ言ったのは啓の優しさ。
「ちーっす。」
しばらくして春樹が部室に忍び込んできた。
「おーす。」
「おいおい。
どうした一真。
ふてくされた顔して。
また啓にいじめられたのか?」
春樹はそう言って、一真の頬をつねった。
「別になんでもねぇよ。」
ふてくされ気味に一真が声を出す。
「つか、またって…
俺啓をいじめたおぼえなんてねぇぞ。」
啓はそう言いながら部室の壁に寄り掛かり、煙草をくわえた。
「おい!
部室で煙草吸うなっつったろ!」
啓が駆け寄ってくわえた煙草を奪った。
「あぁー…
わるい。」
啓が煙草を吸うのは、もう癖のようなもの。
暇なとき、苛ついているとき、考え事をしているとき。
もう中毒レベルだと思う。
無意識に吸おうとしてしまうらしい。
でも部室では吸わないことに決めている。
廃部にでもなったらバンドの練習も出来なくなるからだ。
でも今日無意識に吸おうとしてしまったのは多分、色々考えて、思い出してしまったからだろう。
俺が引き金で、昔のことを色々…。
『♪~♪♪~~♪』
不意に俺の携帯が鳴った。
画面に佳珠音の名前が表示されていた。
「もしもし」
『もしもし』
「どうした?」
『部活終わったら生徒会いくか?』
「あぁ。
適当に切り上げて行こうとおもう。
そうだ、佳珠音はいつ部活終わるんだ?
一緒に行こう。」
『なら私が部活終わったら、軽音の部室によるよ。
どうせ通り道だし。』
「あぁ。
分かった。
それまで部活やってるよ。」
『それじゃあまた後で。』
「ああ。」
佳珠音との電話を終えると、春樹が少し眉間にシワをよせて俺に視線をむけていたのに気づく。
まぁ、想定内だけど。
「おい、どういうことだよ。」
「こいつら付き合うことになったんだよ。」
啓が面倒臭そうにため息をはいて言った。
「だってお前…
ゆきちゃんは」
「これはこうの問題だ。
口出しするな。」
啓が春樹を少し睨みつけた。
「まぁそう言うことだから、練習しよう。」