俺達はテストが終わり、みんなで海に来ている。
でも俺はいっこうに楽しめない。
なぜなら、悩んでいるからだ…。
俺の悩みはただ一つ。
詞がかけないことだ。
なぜ詞をかく必要があるかというと、実はテスト前の放課後、『バンドでオリジナルをやらないか?』という春樹の提案に、乗ったはいいものの、ヴォーカルだからと皆に作詞を押し付けられたからだ。
テストが終わるまでは、テスト勉強があるし…と勉強に逃げられたものの、今日からはそうは行かない。
真面目に作詞に取りかからなければ…。
でも何をかいたらいいのかが分からない…。
どうしよう…。
「どうしたよ?
こう楽しくないのか?」
「…やっぱ作詞」
「何度言ってもダメだよ。
作詞はこうがやることに決まっただろ?
俺は俺の曲にこうの詞を乗せて欲しいんだよ。」
「だって書けねぇんだもん…」
その時ゆきの声が、波の音の間から明るい声で俺を呼んだ。
「こうちゃーん
何暗い顔してるの?」
海から上がって
少し濡れたゆきの
髪や
素肌を
眩しい太陽が輝かせた。
「綺麗だ…」
「えっ?
こうちゃん何か言ったぁ~?」
最初は何故かわからなかった。
すごく
すごく
ドキドキした。
ゆきにも誰にも、こんな感情抱いたことなんてなかった。
胸の奥が高鳴る。
そして
ゆきを愛しく想った。
理由はもう分かった。
ゆきを
愛している。
「そのままのお前の気持ちを詞にすればいいんだよ。」
春樹が俺の背中を軽く叩いてそう言った。
俺は詞をかいた。
春樹の作ったメロディにのせて、自分の今の想いを正直に書くことで、ゆきへの溢れ出しそうな想いを、心の中にしずめることができた。
そして今一時、解放する。
想いを奏でる。
あのメロディにのせて、俺の声で。
「いよいよだ。」
「あぁ~…
緊張するぅー。」
「こう、本当にゆきちゃん呼ばなくてよかったのか?」
「うん。」
「そっか。
じゃあ行くか!」
「「「おうっ!」」」
今日はライヴではじめてオリジナルをやる。
ゆきは呼ばなかった。
それでも緊張した。
でもわくわくしていた。
やっと本当の自分を解放できる。
ステージに上がる。
ステージ上からは
何人かのお客がみえた。
知り合いもいる。
静かなライヴハウスにギターが鳴り響いた。
前奏がはじまった。
好きではなく
愛してる
ずっと
ずっと
君が
好きだった
気づかなかっただけで
恋が始まった頃の僕は
まだ幼すぎて
気づかなかっただけで
きっと
ずっと
好きだった
今その事に気づいて
そしてまた
君に恋をした
僕の感情は
幼い頃の
“好き”
という感情の
ままではなく
“愛してる”
という感情になって
愛してる
ただそれだけ
伝えないから
まだもう少し
君の隣にいさせて
好きではなく
愛してる
きっと
ずっと
君が
好きだよ
でも伝えることはしない
もし伝えたなら
叶うかもしれない
でも伝えることはしない
ずっと
ずっと
一緒だった
一緒だったから
伝えない
僕が求めたのは
変化する
“恋愛”
という関係で
でもけして
“同情”
という関係じゃないから
愛してる
ただそれだけ
伝えないから
まだもう少し
君の隣にいさせて
愛してる
愛してる
君の隣に
いたいから
君には伝えない
愛してる。
俺はこの歌に
『光が眩しいから』
という題名をつけた。
ゆきへの愛に気付いたあの日の、太陽が眩しすぎたから気付いてしまった恋の歌だから。
きっとあの眩しすぎる太陽がなければ気づいてはいなかったから。
ゆきへの愛に気付いて、その想いを解放する術を見つけてもどうしてもゆきを意識してしまう。
そしてゆきを避けてしまう俺の日常は変わっていった。