今の俺達は午前中の授業をこなして、昼休みにゆきと一真の双子の沙織と屋上で昼食を食べるのが日常だ。
今日も午前中の授業をこなして、いつものようにみんなで屋上に集まった。
屋上から見える空は、広くて、手を伸ばせば届きそうなきがした。
風は少しあってここちいい。
「あぁ~…
こうちゃんどうしよう…
もうすぐテストだよぉ…。」
「あぁ~
そうだったなぁ。」
そう言った俺の頭を軽く叩いて、一真がこっちをブスッとした顔で見て口を開く。
「うわぁ~
興味なしかよ?
流石は学年で10位以内のやつはちがうなっ!」
「お前が馬鹿だからって、こうに八つ当たりするなよ。」
「うっさい!
そら啓にはわからないんだろうよ!
お前も学年10位以内だしな…。
あぁーあ。
なんで同じバンドでこうも違うのか…」
「いいじゃん桜庭くんは同じバンドってだけなんだから。
あたしなんて毎日こうちゃんと一緒に、同じ時間勉強してて、こうちゃんの足元にも及ばないんだからね…」
「何言ってんの。
ゆきは勉強し始めて、すぐ飽きて本読みだすじゃん…」
「そっ…
そうだけど…」
「ゆきちゃんはまだいいじゃない。
あたしなんてこの馬鹿が兄貴なんだよ?」
沙織がため息交じりの声で言う。
「はぁ?
お前だって馬鹿のくせに!」
「あんたより馬鹿じゃないし!」
「一点ぐらいしか変わらないくせにいばるなよ!」
「兄妹喧嘩は犬もくわねぇよ。」
「「うっさい!!」」
「シンクロかよ。」
「こらこら…
啓もからかうのはやめなよ。」
「あぁー…。
テストやだなぁ…。」
「ゆき…
そんな言ってもしかたないだろ?」
「そうだけど…
あっそうだ!
テスト終わった次の日休みだよね?」
「そうだよ?」
「みんなで海行こうよ!」
「は?
いきなりどうしたの?」
「なんか
そういうのがないと頑張れなさそうだから・・・」
「「行きたい!!」」
「またシンクロ。」
「「うっ・・・」」
「まぁ皆がいいなら俺は別にいいよ?
啓はどう?」
「俺も別にいいよ。」
「じゃあ
春樹も誘ってみて行くか!」
「「「賛成!!」」」
こんな感じで俺達の昼休みは過ぎていった。
そして俺達は午後の授業をこなし、放課後は部室へ直行して、春樹が部室に忍び込んでくるのを待つ。
「わりーおそくなった。」
「遅いよー。」
春樹はいつもの時間より、30分遅れて部室にやってきた。
「何してたんだよ。」
「まぁまぁ
とりあえずコレをききなさいな。」
春樹は一枚のCDをカバンから取り出して、部室の隅にあるCDデッキに入れた。
その時は、また新しいCDでも買ってきたのかと思った。
でも、流れ始めたメロディーは、ギター一本の雑音交じりのものだった。
そのメロディーは鳥肌が立つくらい、俺の心に響き渡った。
「これ・・・
もしかして・・・
春樹が作ったのか?」
「さすが啓。
ご名答だよ。
そろそろオリジナルやってみないか?」
俺達はテストが終わり、みんなで海に来ている。
でも俺はいっこうに楽しめない。
なぜなら、悩んでいるからだ…。
俺の悩みはただ一つ。
詞がかけないことだ。
なぜ詞をかく必要があるかというと、実はテスト前の放課後、『バンドでオリジナルをやらないか?』という春樹の提案に、乗ったはいいものの、ヴォーカルだからと皆に作詞を押し付けられたからだ。
テストが終わるまでは、テスト勉強があるし…と勉強に逃げられたものの、今日からはそうは行かない。
真面目に作詞に取りかからなければ…。
でも何をかいたらいいのかが分からない…。
どうしよう…。
「どうしたよ?
こう楽しくないのか?」
「…やっぱ作詞」
「何度言ってもダメだよ。
作詞はこうがやることに決まっただろ?
俺は俺の曲にこうの詞を乗せて欲しいんだよ。」
「だって書けねぇんだもん…」
その時ゆきの声が、波の音の間から明るい声で俺を呼んだ。
「こうちゃーん
何暗い顔してるの?」
海から上がって
少し濡れたゆきの
髪や
素肌を
眩しい太陽が輝かせた。
「綺麗だ…」
「えっ?
こうちゃん何か言ったぁ~?」
最初は何故かわからなかった。
すごく
すごく
ドキドキした。
ゆきにも誰にも、こんな感情抱いたことなんてなかった。
胸の奥が高鳴る。
そして
ゆきを愛しく想った。
理由はもう分かった。
ゆきを
愛している。
「そのままのお前の気持ちを詞にすればいいんだよ。」
春樹が俺の背中を軽く叩いてそう言った。
俺は詞をかいた。
春樹の作ったメロディにのせて、自分の今の想いを正直に書くことで、ゆきへの溢れ出しそうな想いを、心の中にしずめることができた。
そして今一時、解放する。
想いを奏でる。
あのメロディにのせて、俺の声で。
「いよいよだ。」
「あぁ~…
緊張するぅー。」
「こう、本当にゆきちゃん呼ばなくてよかったのか?」
「うん。」
「そっか。
じゃあ行くか!」
「「「おうっ!」」」
今日はライヴではじめてオリジナルをやる。
ゆきは呼ばなかった。
それでも緊張した。
でもわくわくしていた。
やっと本当の自分を解放できる。
ステージに上がる。
ステージ上からは
何人かのお客がみえた。
知り合いもいる。
静かなライヴハウスにギターが鳴り響いた。
前奏がはじまった。