『ゆき~っ
あんまり遠くへ行っちゃだめだよ
ゆき危なっかしいんだからさぁ』
『大丈夫だもん』
『あっ!』
『えっ?』
『そっち川!』
バシャッ!
『ほらみろっ
危なっかしいんだから…
よいしょっと』
手をひいて川からゆきを引き上げる。
『どこも怪我してないか?』
『うん♪』
『よしよし』
ゆきを川から引き上げて、
頭を撫でるのは幼い日の俺。
『こうちゃん
お兄ちゃんみたい』
そう言われたのも幼い日の俺。
あぁー…
こりゃ夢だな。
まぁ
今だってゆきとは大して変わんねぇけど…………
『こ……ちゃ』
『まだ夢ですか…』
「こ…ちゃん
こうちゃん
こうちゃん!」
ガバッ!
「んーっ?」
ようやく起きれたっ。
…にしても
やけに最後の方のゆきの声が
リアルだったなぁ。
あっ。
「ちょっとぉ!?
やっとお目覚め!?
しかも起こしたあたしは無視?」
「あっ…
おはようリアルゆき。」
「はっ?」
「それじゃおばさん
行ってきまぁす」
「はぁ~ああ
行ってきます…」
「行ってらっしゃい
こらっこう!
シャキッとしなさい!」
「はいはい…」
家のドアを閉めて
ゆきと学校に向かう。
ゆきと俺はいわゆる幼なじみというやつだ。
まぁ俺がゆきのおもりやく(?)
みたいなもの。
「みてみて!
こうちゃん!
ヒツジ雲!」
「あぁ~はいはい。
ヒツジ雲。
ヒツジ雲ね。
いいから前見て歩きなさい。
つまずっ…」
ドテッ…
「ほらみろ…
言わんこっちゃない…
はいっお手っ!」
「ワン!
…じゃない!!」
「自分で乗ったくせに(笑」
そして俺は犬…
ではなく、
ゆきを起こした。
「どこも怪我してないか?」
「うん♪」
「まったく…
何時までたっても変わんないんだから…」
俺は今日の夢を思い出しながら、そう呟いた。
「何か言った?」
「いつまでも世話のやける妹だって言ったんだよ。」
「じゃあこうちゃんは世話好きのロリコン兄貴?」
ゆきはそう言って、
無邪気に笑った。
「世話やかせてんのは誰だよ…」
これが俺達の日常の始まり。
二人で学校に向かう。
それは幼いまま何も変わらない、俺とゆきの当たり前な朝。
いくら年月が経っても昔からずっと変わらない二人。
ずっと…
学校に着いて、ゆきと別々の教室に入る。
何故か馬鹿な奴らが集まった俺のクラスの教室は、いつものように朝だというのに活気に溢れていた。
そして俺に一人の馬鹿が近づいてくる。
いつものように。
「こ~う
おはよう!」
「あぁー…。
おはよう。
朝から無駄に元気だな。
無駄に。」
「無駄とか言うなって♪
俺今日はちょ~ハッピーなんだからさ!」
「あっそ。」
「うわっ。
冷たぁい…」
「こう。
その馬鹿はほっとけ。」
朝から馬鹿に捕まる俺をクールに助けをくれたのは、馬鹿…
もとい。
この朝からうざったい奴一真と俺のバンドメンバーである啓だ。
俺達三人の出会いは一年前。
高校に入学して1週間ほど経った日の昼休みだった。
その日俺は、いつも読んでいる雑誌の新刊を、どうしても早く読みたくて、昼休みに少し学校を脱け出して、本屋へ行こうとしていた。
本屋は、学校から三分ぐらいしかない距離にあって、昼休みに行って帰ってこれる。
そして校門を出た俺は、すぐに本屋に着いた。
店内に人はあまりいなくて暇なのか、店員は俺の買おうとしている雑誌を読んでいた。
俺が目当ての雑誌をとると、後ろからいきなり声がした。
「野神?」
「えっ?」
驚いて振り向くとそこには、同じクラスの、椿啓がいた。
「あぁ
椿かぁ」
「もしかして…
その雑誌買うために昼休みに来たの?」
「えっ…
そうだけど…」
「表紙のバンドがすきとか?」
「そうなんだよ。
この雑誌はいつも買ってるけど、今回は特にこのバンドが出てるから、どうしても早く読みたくて…」
「同志だ。」
そう言って、椿は同じ雑誌を手に取った。
これが啓とのはじまりだ。
椿が雑誌を手に取ると、後ろからまた声がした。
「あっれー?
野神と椿じゃん!」
「「桜庭ぁ?」」
そこにいたのは、同じクラスの桜庭一真だった。
「えっ?何?
二人ともその雑誌買うの?」
「あぁそうだけど
もしかして桜庭も?」
「そうそう♪
俺このバンドすきでさぁ~。」
「「お前も同志か。」」
「えっ?」
それが俺達と一真のはじまり。