「えー、むーちゃんやめちゃうの?」
急に後ろからした声に、わたしはビクッと肩を震わせた。
「松岡も、ノックしろって。
うちの女共はノック一つもできんのか」
なんて失礼なことを言うのは目の前の男、真壁拓人(マカベタクト)。
22歳にして、キッチンを仕切っている人。
「拓ちゃん、本当に性格悪いね〜
ってそんなことより、むーちゃん!」
と先ほど、わたしと同じようにノックをせずに入ってきたこの綺麗な女の人は、松岡えりさん。真壁さんと同じ22歳で、ケーキを作っているドルチェさん。
「ツナがやめることは、12月には分かってたことだろ。今更何言ってんの」
皆からむーちゃんと呼ばれているわたしは、真壁さんにだけツナと呼ばれる。
なつな の な を省いて呼ばれるのだ。
最初は突っかかっていたけど、今はもうスルー。勝手に呼んでくださいって感じだ。
「そうだけどー、まだまだ先のことだと思ってたから、寂しいのー」
と、えりさんは涙くむ。
「あと1ヶ月はいますから!
それに、たまに帰ってきた時は
食べに来ますよ!」
「来なくていい。ってか来るな。」
えりさんにむかって言ったのに、なんで真壁さんが答えるの。
しかも、拒否された。
(普通に傷つくんだけどな)
「とか言って、むーちゃんがやめて
1番寂しがるのは拓ちゃんのくせに」
「確かに、暇つぶしがなくなるのは
嫌かもな〜。寂しくはない。」
えりさんはそんな事言うけど、真壁さんが寂しがるなんてありえない。
真壁さんにとってわたしは、どうでもいい存在。いや、ただの暇つぶし相手?なだけだ。
わたしのこと、なんとも思ってないことは知ってるし、そんなことでいちいち傷ついてちゃダメって分かってるんだけど
(やっぱり傷つく)