「変人変人変人」

 背後から、三度早口でまくしたてられて、彼は笑った。

 そんなことを言いながらも、彼女はついてきている。

 飲み直そうと誘ったら、少し考えた後に「いいぜ」と答えたのだ。

 多分。

 言葉通り、彼が変人であるから、ついてくる気になったのだろう。

 常識人の中では、彼女はとても窮屈そうだったから。

「名前!」

 先を歩く彼に、すぱっと一言飛んでくる。

「ん?」

 振り返ると。

「あんたの名前は?」

 名無しのままでは、落ち着かないのか。

 どうでもいいのに。

 彼は笑った。

「ケイでいいよ」

 略称で答える。

 名前なんて、いろいろ邪魔なことが多い。

「女みてぇだな」

 素直すぎる感想に、笑ってしまう。

「そういえば、女王の名前も、オレは知らないな」

 すると。

 彼女は、また目をむいた。

 そうだろう。

 この宙母では、彼女は有名人なのだから、今更誰かに名前を聞かれるなんて、思ってもみなかったに違いない。

「あ…あー…あー」

 言いづらそうに、彼女が言葉をつかえさせる。

「…ジョウ」

 何度も何度もうなって、ようやく最後に出てきた言葉。

 なるほど。

 言いたくないわけだ。

「いま…男みたいだって思っただろ」

 即座に、ぎろっと睨まれる。

「めっそうもない」

 そう否定したのに。

 パンチがとんできた。