「なりたくてなってねぇよ。高等学科卒業する時に、行くあての決まってない人間は、無条件で軍に放り込まれたんだよ…あたしらの時代は」

 ガンっと、彼女はグラスを机に置いた。

 音より、彼は反射的に年齢を考えていた。

 その悪法が、実際に施行されたのは、たった二年間。

 人権派がしゃしゃり出てきて、すぐに廃案にされてしまったのだ。

 いまから三年前の出来事だ。

 となると。

 せいぜい23歳。

 ほぼ、見た目どおりの年齢、ということになる。

 入隊して、約5年で撃墜王か。

 それは、軍が宣伝に使いたがるはずだ。

 納得して、苦笑した。

 本人は、それを全部ご存知なのだ。

 はすっぱなしゃべり方をするが、人間としての頭はいいようで。

「ところでさ…」

 彼女の目が、うさんくさいもの見る目に変わった。

 焦点を合わせるかのように、少し目を細める。

「あんた……誰?」

 傑作な質問に、つい大声で笑ってしまった。

「すまん…お前さんが疑問に思う通り、単なる通りすがりだ…ここに撃墜女王がいるって聞いてね」

 笑いをおさえようとしながら、何とかそう言う。

 この宙母を、ベースにする人間ではない。

 ヤボ用で立ち寄っただけだ。

「ああ、そうなんだ…だから何にも知らねーんだな」

 だが、見ず知らずの人間だと分かったら、逆に彼女はほっとしたように見えた。

「現場を知ってる人間なら、逆にあたしには近づいてこねぇもんな」

 ぼそぼそっと。

 暗く沈む、風貌に似合わない声。

 そういえば。

 彼女の称号の祝いなのに、騒いでいる連中は全然彼女に近づいてこない。

 同じ部署だからこそ、こうして席は設けるが、そこには確かに微妙な距離感があった。

 なるほどね。

 彼は、「それ」を理解した。

「怖くないよ」

 にこっと。

 彼女に笑って見せたら──目をひんむかれた。