「お前さんが主役だろ?」

 バーの隅っこで、一人グラスを傾けている女に、彼は声をかけた。

 派手なオレンジの短い髪に、きりりとした眉、大き目の唇。

 どこをどう見ても、気の強そうな女だ。

「あ? いいんだよ…あいつら、人を肴に酒が飲みたいだけなんだから」

 しかし、その気の強さもナリを潜めたように、彼女はため息をついた。

 視線の先には、同じ服装のメンツ。

 といっても、ここは宙母の中なので、ほとんどが同じ軍服の人間なのだが。

「明日死ぬかもしれないってのに…気楽なもんだぜ」

 想像より、醒めた雰囲気の声。

「撃墜王…いや、撃墜女王の肩書きをもらったのに…全然めでたくなさそうだな」

 隣の席に勝手に座りながら、女王の憂鬱に片足をかける。

 すると。

 まるで、変な生き物を見るような目で、こっちを見た。

 勝手に座ったことに対してか、はたまた聞いた言葉にか。

「めでたいわけないだろ…変な伝説勝手に作られて、激戦区に送り出されるんだぞ。生きて帰ったら、次はもっとすごい激戦区だ」

 年は二十歳すぎくらい。

 しかし、いつからその年齢なのかは分からない。

 おそらく、肉体年齢のベストで成長を止められているはずだ。

 軍人に限らず、金さえ積めば簡単な手術で終わる。

 優秀な軍人については、軍が全て手配してくれるのだ。

 そして彼女は、申し分のない、十分優秀な軍人だった。

 累積撃墜数103。

 そして、彼女は「撃墜王」の称号を手に入れた。

「何で軍人になったんだ?」

 そんな自分の栄誉を、まったくもって面倒そうに扱う彼女に──少し興味を覚えた。

 これまで見た撃墜王たちと、随分毛色が違う。

 性別を除くとしても。