今日は家で仕事をするだけだから夜までいてくれていい、というエリーの言葉に。
一度首を振れば、直ぐに頷いて引き止められなかった。
家まで送るという言葉に甘え一緒に部屋を出てから、エリーはもう一度も私に触れては来なくて。
マンションのエントランスも、車を出す立体駐車場でも。
私たちは、絶妙な間隔を空けて言葉少なに歩いた。
私を降ろして、「また明日。」と手を振って。
あっさり走り去って行く車を見送りながら。
私を察知するエリーのアンテナの高さに、つくづく脱帽する。
楽しかった夜は過ぎて。
私は“終わり”を始めないといけない。
丸一日ぶりに帰った部屋。
寝室でアクセサリーを外して、そのままバスルームに向かう。
普段はお湯を溜める派だけど、今日は迷わずにシャワー。
熱い勢いで、汚れを流していく。
CHANELのサヴォンの香りに包まれたら、記憶が込み上げてきた。
これにも、あれにも。
至るところに柊介が根付いてる。
共に過ごした時間の濃さが、心を揺さぶる。
今の私は柊介が作った。
身体も、感覚も、女の本能も。
そう思えるほどの恋だった。
それなのに、私たちは別々の人を求めた。
柊介だけを責められない。
私だって、エリーを求めたのだから。
あんなに愛した時間の果てが、ここ。
出会えて良かったなんて、今は思えない。
なんて悲しくて。
なんて痛い。
何度も何度も深呼吸をして。
それでも枯れない涙を、何度でも流し切って。
濡れた身体もそのままに、オイルも纏う前にベッドの上の携帯を取り上げる。
リダイヤルを押す。
柊介を、呼ぶ。
だけど繋がらない。柊介は応えない。
時間をおいて掛け直しても、一向に柊介に繋がることはなかった。
昨日はあんなに私を呼んだ携帯が、一度も自らは震えない。
必然なのか、偶然なのか。エリーが無事を調べてくれたから心は騒がなかったけれど。
それでも、やっぱり何かあったんじゃないかと感じた。
それなのに柊介を捕まえて、別れ話をしようと思う自分がひどく自分勝手に感じた。
久しぶりに、携帯を枕元に置いて眠った。
知り合った頃みたい。忙しい柊介から連絡が来るのが嬉しくて、すぐに応えたくて携帯が離せなかった。
真逆の話をするために、あの頃と同じことをしてる。
寝付けないかも。そう思っていたのに身体は正直で。
疲れが意識を引きずり込んで、深い深い眠りに堕ちていく。
そんな私を、柊介からの着信が呼ぶことはその夜一度もなかった。