夢を見た。
廣井さんがノルウェーに異動する前の、送別会の夜。
私はその頃ハマっていた韓流ドラマで見た、マッコリとビールを混ぜたドリンクを。
エリーが止めるのも聞かずに、ふざけて作っては口にした。
予定よりも、ずっと強烈な酔いが襲って来て。
一人立ったお手洗いで、鍵を締めた途端動けなくなって。
次の記憶は、柊介のブルガリの香り。迎えに来てくれたんだ、という安堵。
遠くで聞こえた、誰かと言い争うようなエリーの声。
怖いな、そう思ったのは一瞬。
“十和子”
耳元に聞こえた柊介の声は優しくて、安心して大きな腕に身を任せた______________
カタカタと跳ねるような音で目が覚めた。
薄く明るくなった部屋で、ボーダーニットの背中。
細い首に、見慣れた栗毛色。
『エリー・・・。』
目覚めてすぐ浮かんだ言葉は、彼の名前だった。
振り向いた、鼈甲の眼鏡姿。
「おはよ。」
『・・・はよ、』
一晩カラカラに乾いた喉からは、ひっくり返った声しか出なくて。
エリーが手元にあったペットボトルを渡してくれる。喉に流れ込んでくる水は冷たくて、一口ごとに細胞が起き出すのを感じた。
『あたし、寝てた・・・?』
「うん。目離した隙にね。」
なんで?いつの間に寝ちゃったんだろう?
だってあんなに気持ちいいキスをしてたはず______________って、キス!!!
頭が鳴る。
思わずペットボトルの口を離すと、ぼたぼたと水が溢れ落ちて。
あーあ、と笑いながらエリーがタオルで口元を拭ってくれた。
そうだ、私たち、キス、したんだ・・・。
ソッとエリーの唇を盗み見る。蘇る、オスだったエリー。
だけど、なんで?
私、いつ寝ちゃったんだろう??
記憶を辿る。
あ、そういえば______________
『ねぇ、なんで途中でいなくなったの?』
深いキスの途中。エリーは急に離れて奥の部屋に向かった。
「あぁ。取りに行ったんだよ。」
開いたノートPC。画面にはパワーポイントで作成中の会議資料。
『取りに行った?何を?』
「いや。そろそろいるかな、と思って。」
『え?』
「え?」
キョトンとする私に、キョトンとするエリー。
解せない。そろそろいる、って何?
あの状況で必要なものなんて、あった?
『だから、何を?』
今度はエリーの顔色が曇る。
「待ってよ・・・まさか柊介さん使ってなかったわけじゃないよね?
ありえないんだけど。」
『使う?へ?』