もしも、そんなことがエリーの憤りの正体だったと言うのなら。
なんでそれは、こんなに痛くて。
こんなに私を、甘く貫く。
『今日一日、すごく楽しかった。エリーといたからだよ?他の嫌なこと思い出さずにすんだの。
こんなに笑って過ごした週末は久しぶりだったよ。』
見誤ってきたと言われること。
検討もつかない、エリーの隠し事。
『私を誘い出してくれた、エリーの気持ちが嬉しかった。
いつもそう。いつも、どうして分かるの?っていうくらい、エリーは私のことを分かってるの。』
確かめたら、何かが変わるのかもしれない。
それでも私は、もうエリーにこんな顔をさせたくない。
『だけどそれは、』
いつも一人で。
『私を分かろうとしてくれてきたからだよね。』
あんな背中をしてきたからだよね。
『“間違えた”って思ったのは、エリーが好きなのは眞子なのにって思ったからなの。
それを忘れて、エリーに馴れ馴れしくしてしまったから。
だから、“この行動は間違えた”って、そういう意味なの。』
胸が灼ける。
私たちの歴史。確かに重ねてきた日々。
『私はエリーを、柊介と間違えたことなんてない。エリーの代わりになれる人なんていない。
エリーは、私の中でいつだってエリーでしかないよ。』
疑いが晴れたというのに、エリーの瞳は僅かに静かになっただけで。
依然と、唇を噤んだままだった。
何か回想しているような、遠くに投げた視線。
時計の秒針が刻む音さえ拾えそうな沈黙。
この沈黙の意図が分からない。
伝わらなかったのかな、今の言い方じゃ。
もう一度________
そう思って開きかけた唇を遮ったのは、エリーの静かな声だった。
「藤澤が見誤ってるのは、そこなんだ。」
そこ?
そこって、どこ?何のこと?
「藤澤に嘘をついてた。
俺は、須藤を好きだと思った事なんてないんだよ。」
『え?眞子・・・え?だって、だってエリ、』
「俺が好きなのは、須藤じゃない。」
声にこもった熱に気付く。
早鐘が近付いてくる。
エリーと過ごした記憶が、一枚ずつ絵葉書になって降ってくる。
「俺は藤澤と出会った、あの日から。」
何故か、私は。
その先が聞こえる前に、頬を濡らす。
「藤澤以外の誰かを好きだと思った事なんてないんだよ。」