鍵を取り上げる音と、追ってくる気配を感じる。
だけどもう、家まで送ってもらうわけにはいかない。
私はきっと、さっきの何処かでエリーを傷付けた。
「帰って」なんて。
優しいエリーに言わせた自分が最低だ。
スニーカーに足を差し込んで、振り向かないまま思いを告げる。
『下でタクシー拾うから大丈夫。』
「家まで送るよ。」
『エリーも飲んだじゃない。』
「ノンアルだよ。最初から送るつもりだったから。」
『一人で帰れるから大丈夫。』
「送るって。」
『無理して一緒にいてくれなくていいから!』
予期せずして、声が震えた。
エリーに怒ってるわけじゃないのに。私の矛先は、ちゃんと私なのに。
なんだかこれじゃ、エリーに怒ってるみたい。それでも、蓋を開けた心から感情が溢れ出す。
振り返ったそこには。
パーカーを羽織りかけたエリーの姿。
『ちゃんと、嫌なら嫌って言ってよ。帰って欲しいって思うほど頭に来たなら、ちゃんとそう言ってよ?』
「ふじさ、」
『どうしていつも、そうやって自分を誤魔化すの?私、エリーを舐めたんだよ?
それが嫌だったなら、はっきり嫌って言えばいいじゃない。そうしてもらえずに、そんな態度取られる方がよっぽど傷付くよ。』
エリーの瞳が苦く歪む。
それでも堰を切った思いは止まらない。
『エリーはいつも、私に優しい。どんな時も私の味方でいてくれる。
だけど本当は何を考えてるの?エリーだって、私に怒りたい時とかがっかりする時とか、あるでしょう?
私がエリーに正直なように、エリーにだって正直でいて欲しい。』
「俺は優しくなんかない。」
『優しいよ!』
「優しくない。藤澤は俺を見誤ってばかりなんだよ。」
『見誤るってなに?!意味が分からないよ!』
こんなに大きな声、出したいわけじゃないのに。
折れそうになる心を支えようと、嫌でも身体に力が入って。
エリーの苦しそうな表情が辛い。
そんな顔をさせている自分が悲しい。
泣きたくない。いま私が泣くのは、絶対に間違ってる。
だからこそ、エリーから視線をそらさない。
何処までこの間が続いても、視線をそらさない。
「____________分かった。
話すよ、藤澤が俺を見誤ってるところを。」
羽織りかけていたパーカーの片腕に、キチンともう一本の腕を収めて。
送る気は変わらない。
そう言っている動作。
「その前に聞かせて。さっきの“間違えた”って何のこと言ってんの?」
エリーの拘り。憤りのポイント。
それは、どうやらさっきの私の言葉に在ったようで。
分からない。その論点が。
だけど、次のエリーの一言で。
「____________柊介さんと、俺を間違えたってこと?」
ストンと。
何かが腹に落ちて来た。
エリーの怒り。憤りと苦しさ。
その正体が露わになった時。
それに比例して、言葉にならない高鳴りが身体中を叩き始める。
『・・・そんなわけ、ないじゃない。』