小さめのカウンターキッチン。
その向こうで、エリーは緑色のガラス瓶を持ち上げて見せる。


「シトラスジュース。飲む?」

『うん。なんかお洒落な瓶だね〜。』

「お土産で貰ったんだ。冷えてないけどいい?氷入れる?」

『うーん、じゃあ少し入れて。』

「あと、これは酒じゃないけどいい?」


グッ、と。答えに詰まる。

“寝たらキスする”
またそう言われているような、被害妄想。


『______ジュースで大丈夫です。』


目も合わせずに栓抜きを取り出すエリーの姿に、いちいち反応してしまう自分が恥ずかしくなる。

別に、深い意味があるわけじゃないのに。
私が勝手に、空回りしてるだけなのに。



『・・・グラス、どこ?私が出すよ。』


変えようと思ってる空気が変わらない。
これは全部、私の勘違いだ。




私もキッチンに入る。エリーの後ろの、あの黒い棚がきっと食器棚だ。


『あれだよね?開けていい?』

「いや、いい。俺がするから座ってて。」

『なんで?グラス、ここでしょ?』

「いや、上に色々載ってて危ないから俺が____________」





背後に、小さく息を飲んだ音。


確かに聞こえたその音に振り返ると、エリーが手元を見下ろしていて。
その指先に、赤い点が載っているのが見えた。

もう片方の手が握るのは、大きな栓抜き。

不吉な閃めきが頭を過る。



『・・・うそ、切った・・・?大丈夫?』


エリーの返事を待たず、指先の赤はみるみる溢れて。

小さな点から、はっきりとした丸へ早送りを続けて。





「大丈夫、ちょっと切っ______!」


溢れる。

ただ、そう思っただけなのに。





私の唇は吸い寄せられるようにエリーに近づいて。

滴り落ちそうになる血を掬おうと、その指先を含んでいた。