エリーの連れて来てくれた焼き鳥屋さんは、俗に言う“キタナシュラン”のようで。
小綺麗ではないけれど、狭い店内に所狭しと詰まったお客さんたちの笑顔が、その味の高さを保証していた。
私たちは、カウンターの端っこに席を作ってもらい並んで座る。
『エリーはビールでいい?』
「いや、俺は車だから。烏龍茶。」
『え?車は置いて来たじゃない。』
このお店は、エリーのマンション(なんだか家賃が高そうだった)のすぐ裏道にあって。
一旦車を置いてから、歩いてここまでやって来たんだ。
「また乗るよ、藤澤を送るから。」
『え、いいよ!!流石に帰りはタクシーで帰るから!』
だから一緒に飲もう?
そう言おうとした時にはもう、エリーは店員さんを呼び止めて。烏龍茶とレモン酎ハイを注文してくれていた。
帰りも送ってもらうなんて。
私はどれだけエリーに借りを作れば気がすむのか。涙
エリーは私に甘すぎる。
「何でも美味いけど、とりあえずレバーとぼんじりと・・・。」
『あ、ぼんじり大好き!』
思わず、硬直した。
無防備に右上を見上げれば、あまりにエリーの顔が近かったから。
「よかった。あとは、手羽先とササミと___」
しっかりしろ、私!
ここのお店は狭すぎる。並んでメニューを覗けばこんな距離になるのは当たり前。
分かってるのに、視線がエリーの喉仏や胸元を辿ってしまう。
どうしよう、エリー側の右半身がピリピリしてきた・・・
「___って感じで頼んでいい?なんか気になるのあった?」
『いえ、そんな感じでお願いします!!』
会話が全然頭に入ってこなかった。。
まぁ、いいか。きっとこのお店なら何でも美味しい。
隣の席に運ばれてきた、生姜と鰹節がたっぷり載った焼き茄子を見てひとりごちる。
「焼き茄子も頼む?」
『えっ?!』
振り返れば、頬づえをついてイタズラに微笑むエリー。
「すげぇ見てるから。あれも美味いよ?」
近い!ていうか、なんか妖艶!!汗
いかん、これ以上目を合わせてると石になる!
慌てて目をそらす。
『結構です・・・。』
今日はどうかしてる。
私はまだまだ、エリーのかけた魔法が解けない。
その時、カウンターの上に出していた携帯が震えた。
メールかな?そう思って、そのままにしようとして。
だけど止まない震えに、これは電話かもしれないと気づく。
「電話じゃない?出ていいよ。」
エリーが店員さんから飲み物を受け取る。烏龍茶を自分の前に、レモン酎ハイを私の前に。
誰だろう?こんな時間に電話なんて、お母さんかな?
そう思いながら返す着信画面には___
“清宮 柊介”