駐車場まで向かう薄暗い道を、エリーと手を繋いだまま歩く。

なんでこの手、離されないんだろう。どこで離れるんだろう。
心が震える。エリーの横顔を見れなくて、ただ足元を辿る。



『飲み直すって、焼き鳥屋さんに行くの?』

「うん。藤澤、あんま食べてないだろ?」

『そんなことないよ?エリーがお肉持って来てくれてたし。
まぁ、まだ食べれるかなっていう気はするけど。エリーの方が、焼くばっかりで食べれなかったんじゃない?』



暗い雑木林。こんなシチュエーションでエリーと二人、手を繋いで。
なんだか現実じゃないみたい。



「それはいいんだけどさ、あいつらに藤澤のことばっか聞かれて。そっちの相手の方が大変だったよ。笑」


エリーと“いたしてる”かを揶揄いに来た、マルコメ少年を思い出した。


『そっか・・・。汗
なんであの子たち、この話知ってたんだろう?あの、佐伯さん?っていう方が話したのかな?』

「あ、俺が言った。藤澤のこと、彼女だって。」


あっさり放たれたエリーの返しに、耳を疑う。


『は?!なんで?!なんであの子たちにも言ったの?!』

「みんなに、藤澤に俺の彼女として接して欲しかったから。」


なんで?!そう返そうとしたら、エリーが立ち止まる。
ジンジン鳴る左手が、込められた力のせいか熱のせいなのか分からない。


エリーの瞳に射抜かれる。夜闇の中で、黒く光る。

自分の喉が鳴る音が聞こえた。





「こういう感じだよ。」




木々の間を流れて行く風の音。
熱を持った首筋を、春の夜が駆け抜けて行く。




「俺と付き合ったら、こういう感じだよ。」




瞬間、ばらばらと解けていく記憶。
蘇るワンシーン。



“全く想像ができないの”

“柊介さん以外と付き合う自分が、想像できないってことか”

“なるほどね”



エリーの目論見が、その正体を明かす。
エリーが今日教えたかったのは、きっとサッカーのルールなんかじゃない。


優しさが痛い。思い遣りが痛い。

気づかなかった、自分が痛い。





『エリー・・・』

「もう誰かを好きになれないなんてこと、ないから。
失いたての時は、誰だってそう思うよ。その気持ちはよく分かる。」


泣きそう。この期に及んで、まだ甘えが残ってる。


「だけど藤澤なら、何度でも誰とでもちゃんと恋愛出来るから。」


息を吐いたら涙が溢れそうで、唇を噛んだ。


「俺が保証する。だから頼むから___」


それなのに頬は、温かく濡れた。





「自分が幸せになれる道を選んで。」





エリーの情には、友情とか愛情とか、そんな境がないのかも。
だってこんなに温かくて、こんなに親身で。

私はエリーの思惑通り、ちゃんと今日1日エリーと恋愛してるかのような気分になれた。
柊介以外の人でも、ちゃんとドキドキして楽しくて。

エリーが彼氏だという響きが眩しかった。
私を見つめる穏やかな視線に、安堵する心は蕩けた。




女の下心なんてくだらない。
逃れられないのは、私の弱さだ。

もしも柊介を選ぶなら、ちゃんとそれ以外の理由を。

柊介の過ちもズルさも、未来に残る傷痕も。

あの人に纏わる何もかもを、受け入れる覚悟を。






声をあげて泣く私の手を、エリーはただ強く握ってくれていた。
彼の体温に心が浄化されて、悪いものが全部涙として出ていっているような気がした。


見上げる月は、細く細く欠けていて。

今夜は頼りないけど、そこにはこれから満ちていく強さも香っていた。