私の思考が破裂したのと、二人のママさんが立ち上がって声をあげたのはほぼ同時だった。


「こら、浩介!」
「剛志!!」


はしゃぎながら逃げて行くマルコメ少年の背中を、チカチカする視界で見つめる。

えっちって・・・、えっちって!!
あの子達いくつ?小学生だよね?なんでそんな言葉を?!

しかもしかも・・・
私がエリーとって!!!!!!!汗



「ごめんね〜、藤澤さん!ほんとに男ってのはいくつでも変わらなくって。後でキツく叱っておくからね。」

『あ、いえいえ・・・。』

そうは言いつつも、全くショック冷めやらず。フラつく体をパイプ椅子に沈めようとして___






エ「藤澤。」

『きゃっ!』


突然のご本人登場に、ビクついた体は着地場所を間違えて。地面の上にそのまま落ちた。


『あてて・・・。』


尻餅をついた無様な私に、差し出されるのは形のいい手の平。
辿る、そこには。


エ「ほら。」


頬に火が宿った。
夕陽を逆光に浴びた、王子様。

いつの間に着替えたのか、ジャージから今朝の正装に戻って。屈んだ姿勢の胸元で、クロムハーツのネックレスが揺れる。

燃えた喉が乾く。


『ありがと・・・。』


溢れた言葉も、彼に向かう左手も。
全て私の意志を待たずに、王子様に操られたように。

あまりの手の平の温かさに、一瞬引き下がりそうになったけれど。その時にはもう、柔らかく引き上げられていた。



エ「俺たち、そろそろ帰ろっか。」

『え?もう?』


未だ繋がったままの左手が熱くて堪らない。
私を立ち上がらせる、その用途は果たしたはずなのに。


エ「うん。二人で飲み直そう。」


今頃ほろ酔いはちみつレモンのアルコールが回って来たのか、喉が鳴る。
左手から伝わるエリーの体温が、どくどく身体に流れてくる。

振り返ると、いつの間にか雄くんは柳田さんの肩に頬を乗せて目を閉じていた。



エ「雄が寝てる、この隙に。起きたらまた藤澤取られるからさ。」

取られたりしないよ?
浮かれそうになる心を自重する低めの声は、保護者さんたちに頭を下げるエリーには届かず。


エリーに引かれながら、「またね」と手を振ってくれるママさんたちに何度も頭を下げて。
柳田さんに会釈して、雄くんにもソッと『また遊ぼうね。』と囁いて。



何故か離れない左手にひたすら胸を逸らせながら、土手の階段を上がるエリーの背中を追った。