わ、わたし?!
エリーじゃなくて、私?!?!


「いやぁぁぁぁぁぁ〜」

小さな手で、私のデニムをギュッと掴んで。
大粒の涙を惜しげもなく溢しながら、雄くんは私に抗議するように声を張り上げて泣く。



私がバイバイって言ったから?帰って欲しくないってこと?!



『ゆ、雄くん・・・』

抱き上げようと手を伸ばせば、離れるもんかとおでこから脚にしがみつく。



何これ!!可愛い!!!涙



やっと子供たちを振り切ったエリーが、空のクーラーボックスを肩に戻って来た頃には。

『エリー、焼き鳥よりバーベキューしよう。』雄くんをしっかり抱き締めながら、私は涙目で決断していた。










「雄は確信犯だからなぁ。」

帰るのをやめた、私の膝の上で。
まだ濡れた睫毛のまま、アンパンマンのりんごジュースを吸い上げる雄くんを柳田さんが呆れたように見下ろす。


『確信犯?』

柳「そうだよ。
雄はね、藤澤さんが帰らないって言えば岳人が残るって分かってて藤澤さんを引き止めたんだよ。」

『え!!そうなの?!』


驚いて覗き込むと、雄くんの涙で濡れた睫毛はパチパチ瞬いた。

こんな小さな頭で、そんな高尚な手段を?
天才じゃない?!汗




柳「こいつ頭いいな〜って思うんだよ、親バカだけどさ。笑」


雄くんの黒髪は、夕方の陽を受けて濡れたように光って。
その向こうに、子供たちとバーベキュー用のテーブルを組み立てるエリーが見える。


柳「岳人の弱点が君だって、もう見抜いてんだよね。」



柳田さんの言葉に相まって、小さな子がエリーの背中に飛び乗る。弾けたようにエリーが笑う。

夕陽に透ける横顔に、心が跳ねる。




『弱点・・・』

私が、エリーの?

なんだろう。この擽ったい響きは。



柳「そ。藤澤さんの弱点って何?」

『・・・そう言われると何でしょう。けど秘密です。』

柳「まーまー、そう言わずに教えてよ。」

『何でですか?』

柳「ん?岳人に売る。」

『売るなっ!笑』



笑い声をあげた柳田さんにつられて、雄くんも笑った。







柳田さんの言葉は、いちいちあったかい。
それは私が、“嬉しい”と感じる何かを含んでいるからだ。

だけど、その嬉しさの正体に触れそうになって、私はその都度手を引っ込める。

それは知らなかったもの。
隠されていたもの。










春の夜が近づいてくる。

頬を撫でる風の温度は下がるのに、不思議と心は舞い上がる。


振り返ったエリーと目が合って、彼は柔らかく微笑む。









勘違いでなければ、エリーはもしかしたら。





私はその時。


もしかしたら。