長茄子は輪切りにして、ピーマンは中のタネを丁寧に除いて。
かぼちゃは・・・とりあえず薄切りでいいのかな?



「よかったの〜?江里先生とデートの予定だったんじゃないの?」

『デート、ではないですからっ・・・』


いいタイミングで包丁に力を込めることが出来た。
大物のかぼちゃは、綺麗に真っ二つに割れた。



「社内恋愛なんでしょう?いいわね〜、旦那との古き良き時代を思い出すわ!」

「えっ、青木さんのとこって社内恋愛だったの?!
藤澤さん、タネはこっちに捨てていいわよ。」


ママさんたちの輪に混じり、バーベキュー用の野菜を刻む。
話題は先ほどの女性、佐伯さんがブチまけたという、私とエリーの“交際”について。

当の佐伯さんは夕方から仕事があるとかで、息子くんを置いて帰ってしまって。
私は今更このネタを否定する事も出来ず、曖昧な反応で場を繋ぐ。



視界の端で、エリーが柳田さんとテントを畳んでいるのが見えた。
雄くんは、すぐそのそばで地面にしゃがみ、何かを必死に話しながらネズミを地面に走らせている。

雄くん。
私をこのバーベキューの場に留まらせた、可愛い確信犯。








快勝をおさめた練習試合の後、「帰ります。」と保護者さんたちに頭を下げたエリーをマルコメくん・・・もとい、子供たちが取り囲んだ。


「なんでー?!」
「バーベキューしよーぜー?!」

エリーは困った顔で笑いながら、「また今度な。」と子供たちの頭を撫でる。

その背中に、ちょっと罪悪感。やっぱりエリーは、私と焼き鳥じゃなくて、この子たちとバーベキューしてあげた方がいいんじゃ?

私、帰ろうかな。
さっきまでの拗ねた気持ちとは全く違う、素直にそう思える。





ふと、離れたところで柳田さんの足元にしがみつく雄くんと目が合った。
小さな唇をへの字に曲げて私を見上げてる。

可愛いなぁ・・・次は、いつ会えるかな?
雄くんもエリーがバーベキューに残ってくれた方が嬉しいはず。
よし、やっぱり私は帰ろう。



『雄くん、ばいばい。また遊ぼうね。』

腰を曲げて、雄くんに手を振る。
あの紅葉みたいな手の平を振り返してくれる________


________と、思ったところで。




「あぁーーー!」

雄くんは、文字通り火が付いたような大泣きで。
覚束無い足取りで、小さなスニーカーをピコピコ鳴らしながら走り出す。

だめだ、私たちが帰ると思ってエリーにしがみつくのかも。
あんな必死な顔で泣いて、可哀想すぎる!涙


『エリー、私かえ、』

慌ててエリーに声をかけようとした私の足元に、軽い衝撃と柔らかい温もり。

視線を下げれば、そこにいたのは雄くんだった。